患者満足度が上がる?クリニックでのスタッフの労働環境の重要性

クリニックを経営するにあたり、医師や設備だけでなく、診療の前後に対応するスタッフも、診療のサービス品質に関わる重要な要素です。良い人材に長く働いてもらうには適切な労働環境が必要です。どのようにクリニックの労働環境を整えていくかご紹介します。

クリニックの患者満足度にはスタッフ・接客の質も重要

スタッフの質は患者満足度に影響し、患者満足度はクリニックの業績に影響していきます。

これを示しているのが、SPC(サービス・プロフィット・チェーン)という考え方です。1994年にハーバードビジネススクールのヘスケット名誉教授・サッサー名誉教授らによって発表された「サービス・プロフィット・チェーンの実践方法」という論文にて提唱されました。

これによれば、スタッフの満足度が向上するとモチベーションの向上や優秀な人材の定着が見込まれます。そうすることで、患者さんへの接客などサービス品質も向上し、かかりつけとして通ってくれる患者さんが増加したり、クリニックの評判が高くなります。このようにして、最終的にはクリニックの業績向上につながるというものです。

一方で、離職率が高い状態だと、採用のための負担が増加するだけでなく、業務を身に付けてもらうまでの時間が増加するなど、業務の効率化やサービスの向上からは遠ざかってしまいます。離職率の低い、働きやすいクリニックを目指すことが重要です。

クリニックで働くスタッフの人数、種類

労働環境を想定するためには、どのようなスタッフが必要になるか考えることが必要です。クリニックでは何人のスタッフを雇用し、スタッフは具体的にどのような業務を担当するのでしょうか。

診療に必要なスタッフの人数

クリニックにおける適正なスタッフ数の考え方として、最大患者数の7割に対応できるスタッフ数という目安があります。たとえば最大で50人の患者さんを見込むとすればその7割に当たる35人の来院に対応できるスタッフ数を想定します。

更に、来院患者数に対するスタッフ数の目安として、来院患者20人に対して1人のスタッフが一般的に適正とされています。35人に対応することを考えると2~3人のスタッフが必要ということになります。

ただし、時期や曜日によって来院患者数が変動することも考えられるため、常勤とパートを設けるなどして柔軟に対応すると良いでしょう。

スタッフの種別と仕事内容

クリニックにおける主要なスタッフの種類として、医療事務と看護師の2つがあります。

医療事務は、受付などでの患者さんへの対応から会計業務、カルテの準備などの幅広い業務を行うスタッフです。医療事務の仕事に就くために特定の資格・免許は不要ですが、いくつか民間の資格が存在し、一般の事務職とは異なる専門性が求められます。また、患者さんがクリニックを訪れて最初に対応するのも医療事務のスタッフになります。

主要な業務の例です。

  • 受付業務:患者さんから診察券を預かる、初診の方に問診票を書いてもらう
  • 会計業務:診療内容から診療費を計算し、患者さんから受け取る
  • レセプト業務:患者さんのレセプトを作成し、各関係機関に診療報酬を請求する
  • 掃除、片付け:定期的にクリニックの清掃や書類の整理を行う

看護師は、診療介助を行い、問診やバイタルの測定、採血など多くの診療に関わります。また、比較的小規模であるクリニックにおいては看護業務だけでなく清掃や医療器具の洗浄、備品の発注といった事務業務を行うこともあり、医療事務と同様に幅広い業務にあたります。

  • 看護業務:バイタルの測定、点滴の対応、注射など
  • 事務業務:薬品の発注、電話対応、医療器具の洗浄・消毒など

必要な人件費、収入の設定

診療に必要なスタッフの人数や種類がわかったとして、クリニック経営者として次に外せない点が人件費です。一般的に、クリニックにおける人件費の適正な割合は、クリニックの想定収入の約15%です。

クリニック全体の収入が4,000万円であれば、人件費の目安は600万円となります。パートか正社員かにもよりますが、正社員であれば2人程度になるでしょう。

雇用形態によっては人件費を抑えられるかもしれませんが、スタッフのモチベーション、責任の所在を曖昧にしないことなどといった組織運営について考慮すると、すべてのスタッフをパートにすることは望ましくありません。

労働環境

実際のクリニックでの労働環境を良好なものにするためには、適切なルールや研修などの機会を設けることが重要です。以下では、就業規則やそのメリット、またクリニックでの人間関係などについてお伝えします。

就業規則を設ける

クリニックを経営する上では、就業規則を設けると良いでしょう。就業規則とは、労働条件や職場のルール(規律)などについて医院が定める規則のことです。

労働契約法7条には、

「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」

引用元: 労働契約法7条

とあります。つまり、労働条件の基本的な部分を就業規則によって定めることができます。

基本的な労働条件の例としては以下のような項目があります。

  • 勤務時間:診療時間に応じて、スタッフの労働時間を定める
  • 賃金と賞与:地域の相場などを考慮し、基本給や時給、賞与の回数などを定める
  • 安全や衛生について:労働安全衛生法や関連する法令についての言及や追加のルールを定める

就業規則を作成することによって、以下のようなメリットがあります。

  • 労働条件を明確にし、スタッフ間の不公平感をなくす
  • 就業規則を根拠とすることで、労使間のトラブルを防止する
  • スタッフの突然の退職に対応できる

就業規則は法律上10人以上のスタッフを雇用する場合作成しなければならない(労働基準法第89条)ですが、上のように雇用上の様々なトラブルに対応できるというメリットもあるため、スタッフが10人未満のクリニックであっても作成をおすすめします。また、一度作成した就業規則は、実態に合わせて定期的に見直すことも重要です。

人間関係・トラブル

クリニックの労働環境を考える際に気をつけるべきことの1つは人間関係です。特に、大規模な病院とは異なり少人数のクリニックでは、各自の人間関係におけるトラブルがクリニックを巻き込む問題になりかねません。

離職率が低いことは望ましいことですが、ただ離職率を下げることだけでなく職場の風通しの良さも重要です。固定化された人間関係によってスタッフにとって窮屈な職場になってしまうことも考えられるためです。

クリニックを経営する立場としてはそのようなトラブルが起きていないか注意深く観察するほか、スタッフには公平に接することや、日頃から職場環境に関する方針を明確に伝えておくと良いでしょう。

スタッフに向けた研修の機会を設ける

就業規則についてお伝えしましたが、就業規則を設けるだけでは、適切な人材育成や円滑なクリニック経営をすることは難しいでしょう。スタッフにのびのびと活躍してもらうには、クリニックにあわせた適切な研修やマニュアルを作成することが望ましいです。

例えばクリニックを開業する場合、電子カルテなどの医療機器について業者の方から説明を受けたり、はじめから明確にマニュアル作りを行ったりすることが大切です。

このクリニックではこのような方法で業務を行うなどと明確にすることで、人の入れ替わりがあったとしてもスタッフごとに仕事のやり方が異なってしまうことを避けられます。

また、インシデント・アクシデントレポートも、トラブルがあった際に院長に報告するだけでなくその後の再発防止のために作成する習慣を付けたいところです。

今までマニュアルや研修を設けていなかった方も、各スタッフが確実にスキルを身に付けられる機会を設けることをおすすめします。

やりがいの感じられる環境が満足度の高いクリニックを生む

少人数で経営するクリニックにとって人間関係のトラブルはなるべく避けたいものです。

そのためにも、明確にできる労働条件やルールに関しては、ご紹介した就業規則やマニュアルなどに記すことで備えておきましょう。

スタッフにとって働きやすい職場を作ることが患者さんの満足度に繋がり、結果的にクリニックに良い影響がもたらされます。

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部   

各種メディアでのコラム掲載実績がある編集部員が在籍。
各編集部員の専門は、社会における機能システム、食と健康、美容、マーケティングなどさまざまです。趣味・特技もボードゲームに速読にと幅広く、個性豊かな開業支援チーム。
それぞれの強みを活かしながら、医師にとって働きやすい医療システムの提案や、医療に関わる最新トレンドの紹介などを通して、クリニック経営に役立つ情報をお届けします。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。