#06 患者さんをずっと在宅で抱え込むことが在宅医療ではありません。

神経内科医でリハビリテーション医でもある石垣泰則氏は、在宅医療の第一人者である佐藤智氏の「病気は家で治す」の教えに強い感銘を受け、20年以上に及び神経内科専門の在宅医療に取り組んでいる。 その経験の中で、家や家族、そして地域そのものに治癒力が宿っていることを実感すると語る。 「リハビリテーションの真髄は在宅に在り」と信じ、日常診療に取り組んでいる石垣泰則氏は、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会の副会長として、在宅医療体制の充実を目指す活動にも日々尽力している。 (『ドクタージャーナル Vol.25』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

治せない病気に立ち向かうという事

現状では、治せない病気があるのも事実です。例えばALSの患者さんでは、平均で3年半の経過の中で自然に亡くなられることが多い。

その3年半を、少しでも苦しみが無いようにして、本人が望むことができるためのサポートをする。という医療があっても良いのではないか。
それこそが在宅医療の本質ではないかと思っています。

確実に死に向かっていくALSの患者さんにとって、笑顔を保ちながら生きていくということは大変なことだと思います。

時には医療よりも、一緒に暮らす家族の力のほうが、患者さんの支えになっているのではないかと感じることも多々あります。

ですから、患者さんだけでなく家族へのサポートがとても大切です。サポートの仕方にもいろいろとあり、ただ優しく接するだけでなく、時には叱咤激励することもあります。

ALSで苦しんでいる本人を見ているのが辛いと訴えてくる家族には、一番苦しいのは本人なのだから、あなたがめそめそしてはいけない。と励ますのです。

在宅医療で診る認知症の人とは

― 認知症のひとの在宅医療も大きなテーマといわれています。―

在宅医療にとっても認知症はとても大きな課題です。

在宅医療で診る認知症の人とは、以下のような人達です。

  1. BPSDなどにより医療にうまくアクセスできないという患者さん。
  2. パーキンソン病や諸々の神経疾患に伴って発症してくる認知症の患者さん。
  3. 老年期の精神疾患の中で精神科に繋ぐことのできない患者さん(これは精神医療の在宅医療になってくると思います)。
  4. 一人暮らしで本人の病識が乏しく生活に困っている孤立した認知症の人。

特に、進行期のパーキンソン病の患者さんは、認知症の発症率が高く、そこにはレビー小体型認知症という問題がついてきます。ですから認知症に対する配慮はとても大切となります。

また、認知症の人達には、それぞれしかるべき形で対応する必要があります。

一例を挙げると、私どもが区からの依頼で、一人暮らしの認知症のお年寄りの在宅医療に入ったケースがありました。

区では最終的に、この人は施設で保護されるべき人だと方針が決まったのですが、それまでに3年半かかりました。

しかしその3年半の間に、区の職員が尽力して遠縁の親族を見つけてくれたおかげで、その間がスムーズに進みました。勿論、その間は在宅でのサポートが必要でした。

このようなサポートもしていかなければならないのです。

患者さんをずっと在宅で抱え込むことが在宅医療ではありません。その人が必要な生活環境に変化させるという力も在宅医療にはあります。

認知症を取り巻く社会的課題もあります

認知症の人にとっても、住み慣れた自宅で暮らすことが良い影響を及ぼすと言われています。

それは事実ですが、しかし昔は、認知症の人でも普通に自宅で暮らしていました。

認知症の診断を受けない人も多かったし、たとえ認知症になっていても、生活に困らない生活をしていた高齢者の方は多くいました。

今は、日々の生活には困っていないけれど認知症だという人まで、雑然とひとまとめにして認知症のレッテルを貼って、薬を投与したりしているケースも見受けられます。

本当の認知症とは何か、ということを国民的レベルで考えて、治療の在り方とか対応の在り方を検討する必要があるのではないかと感じます。

認知症が、認知症の本人ではなく、周囲の人たちによって語られてきたことにも、問題があると思います。

この記事の著者/編集者

石垣泰則 コーラルクリニック 院長 

一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長、一般社団法人日本在宅医学会理事、
医学博士、日本内科学会認定内科医、日本神経学会神経内科専門医、日本在宅学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本医師会認定産業医、介護支援専門員
1982年順天堂大学医学部卒業、順天堂大学医学部脳神経内科入局、1990年城西神経内科クリニック開業、1996年医療法人社団泰平会設立 理事長、2009年コーラルクリニック開院

この連載について

「その人の尊厳を尊重しながら、病気は家で治す。最期まで寄り添う。」

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。