#06 患者さんをずっと在宅で抱え込むことが在宅医療ではありません。
連載:「その人の尊厳を尊重しながら、病気は家で治す。最期まで寄り添う。」
2020.01.15
治せない病気に立ち向かうという事
現状では、治せない病気があるのも事実です。例えばALSの患者さんでは、平均で3年半の経過の中で自然に亡くなられることが多い。
その3年半を、少しでも苦しみが無いようにして、本人が望むことができるためのサポートをする。という医療があっても良いのではないか。
それこそが在宅医療の本質ではないかと思っています。
確実に死に向かっていくALSの患者さんにとって、笑顔を保ちながら生きていくということは大変なことだと思います。
時には医療よりも、一緒に暮らす家族の力のほうが、患者さんの支えになっているのではないかと感じることも多々あります。
ですから、患者さんだけでなく家族へのサポートがとても大切です。サポートの仕方にもいろいろとあり、ただ優しく接するだけでなく、時には叱咤激励することもあります。
ALSで苦しんでいる本人を見ているのが辛いと訴えてくる家族には、一番苦しいのは本人なのだから、あなたがめそめそしてはいけない。と励ますのです。
在宅医療で診る認知症の人とは
― 認知症のひとの在宅医療も大きなテーマといわれています。―
在宅医療にとっても認知症はとても大きな課題です。
在宅医療で診る認知症の人とは、以下のような人達です。
- BPSDなどにより医療にうまくアクセスできないという患者さん。
- パーキンソン病や諸々の神経疾患に伴って発症してくる認知症の患者さん。
- 老年期の精神疾患の中で精神科に繋ぐことのできない患者さん(これは精神医療の在宅医療になってくると思います)。
- 一人暮らしで本人の病識が乏しく生活に困っている孤立した認知症の人。
特に、進行期のパーキンソン病の患者さんは、認知症の発症率が高く、そこにはレビー小体型認知症という問題がついてきます。ですから認知症に対する配慮はとても大切となります。
また、認知症の人達には、それぞれしかるべき形で対応する必要があります。
一例を挙げると、私どもが区からの依頼で、一人暮らしの認知症のお年寄りの在宅医療に入ったケースがありました。
区では最終的に、この人は施設で保護されるべき人だと方針が決まったのですが、それまでに3年半かかりました。
しかしその3年半の間に、区の職員が尽力して遠縁の親族を見つけてくれたおかげで、その間がスムーズに進みました。勿論、その間は在宅でのサポートが必要でした。
このようなサポートもしていかなければならないのです。
患者さんをずっと在宅で抱え込むことが在宅医療ではありません。その人が必要な生活環境に変化させるという力も在宅医療にはあります。
認知症を取り巻く社会的課題もあります
認知症の人にとっても、住み慣れた自宅で暮らすことが良い影響を及ぼすと言われています。
それは事実ですが、しかし昔は、認知症の人でも普通に自宅で暮らしていました。
認知症の診断を受けない人も多かったし、たとえ認知症になっていても、生活に困らない生活をしていた高齢者の方は多くいました。
今は、日々の生活には困っていないけれど認知症だという人まで、雑然とひとまとめにして認知症のレッテルを貼って、薬を投与したりしているケースも見受けられます。
本当の認知症とは何か、ということを国民的レベルで考えて、治療の在り方とか対応の在り方を検討する必要があるのではないかと感じます。
認知症が、認知症の本人ではなく、周囲の人たちによって語られてきたことにも、問題があると思います。