#02 地域のかかりつけ医として街づくりに取り組む

東京都町田市の戸建て住宅が立ち並ぶ閑静な住宅街の中にある、西嶋医院とケアセンター成瀬。 この地域で西嶋公子院長は、40年近くにわたり地域のかかりつけ医として、外来診療と在宅医療に取り組んでいる。 特筆すべきは、住民のボランティアグループの結成や、地域ケアの拠点「ケアセンター成瀬」の建設陳情活動など、常に自らが中心となって、住民参加による街づくりに尽力してきたことだ。 「常にみんなで意見を出し合い、みんなの合意の上で全てを決めてきました。私への反対意見があった時でも、必ず全ての意見を尊重してきました。多数決や強制で決めたことは、一度もありません。」と、住民参加型の街づくりにこだわってきた。 長年の活動に対して、平成27年に第3回「日本医師会 赤ひげ大賞」が贈られている。 西嶋公子院長は自らを、住みやすい街づくりのコーディネーターであり、オルガナイザーと自認する。 (『ドクタージャーナル Vol.28』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

地域包括ケアの先駆け、住民参加型のボランティアグループ「暖家の会」

平成元年に、地域ボランティアグループ「暖家の会」を設立しました。

「暖家の会」の名称には、暖かい家庭で最後まで暮らしたいという意味と、生かされていることへの感謝(ドイツ語のダンケ=ありがとう)の意味が込められています。

地域包括ケアの中には、医療保険や介護保険などの制度上で賄われるサービスもあれば、保険制度や行政サービスの狭間にあるサービスもあります。

その狭間にあるサービスを誰がやるのか。その時に私が考えたのは、資格を持たない普通の人たちによるボランティアグループでした。

本来の地域包括ケアとは、たくさんの人たちが、それぞれの役割を持って地域づくりに参加するということだと思います。

専門職でない普通の人に何ができるのか、そしてケアやサービスを受ける側にとってはどんなサービスが受けたいのか、という普通の人達の思いを中心に据えた時に、そこから色々なニーズが見えてきました。

「暖家の会」では、人が動くことでできるサービスにいろいろと取り組みました。

最初は、利用者さんが自由に楽しく過ごせるミニ・デイサービスから始めました。

主婦の会員が余分に作った食事を、老々介護のお宅と一人暮らしの男性に限定して提供する配食サービスや、時には訪問入浴サービスも行いました。

また、介護に関する勉強会やセミナーなども精力的に行い、地域に住民参加型の街づくりの種をまいてきました。

住民アンケート調査から見えてきたもの

平成4年に、この地域(成瀬台)にあった町田市の公用地に、コミュニティーセンタ―の機能も持ったケア施設を住民の手で建設しようという請願活動を始めました。

2ヶ月で4,500名の署名を集め、「自ら運営しケアの自給自足を目指すケアセンター」という住民参加型のスタイルを町田市に提示しました。

請願書では、運営を外部に委託するのではなく、ケアから食事サービスまで全ての高齢者ケアを地域の自分達でやらせてください。と訴えました。

当時は介護保険もまだない時代でしたから、私たちの提案も一つの形と認められ、市長からゴーサインが出て、調査費用の予算を確保してくれました。

私は、行政も含めたプロジェクト委員会で、「一部の人の意見で決めていくのではなく、全部私たちで行うので、アンケートを取らせてほしい。アンケートの回収からデータ分析まで全て自分たちで行います。」と訴えました。住民参加型のまちづくりを推進したかったからです。

そこで私たち「暖家の会」と自治会は、住民のニーズを引き出すために、4000世帯にアンケートを配り、2000件の回答を得ました。なんと50%という高い回収率です。

なぜアンケートを取ったかと言うと、住民参加型を貫くためには一人一人の意思が大事で、自ら手を挙げる方式が必要なわけです。いわゆる草の根民主主義的手法です。

アンケートにも工夫を加えました。例えばアンケート用紙のページ半分は無記名で回答できる設問にして、残り半分は各種の活動に参加できる人が氏名や連絡先も記入できるようにしました。そうすることで、回収したアンケートの中から、各種の活動への希望者をそれぞれに集めることができるからです。

集まった回答からわかったのは、ここに住み続けたいという永住志向の強さと、ケアセンターを利用したいという希望が90%もあったということでした。

アンケートの集計で更に驚いたことは、「あなたがサービスを提供する側として活動に参加しますか」、という問いに対して実に6割、1200名もの人が賛同してきたことです。

この記事の著者/編集者

西嶋 公子 医療法人公朋会 理事長 

医療法人社団公朋会理事長、西嶋医院院長。社会福祉法人創和会理事長。NPO在宅ケアを支える診療所市民ネットワーク理事、社会福祉法人創和会理事長、町田介護支援ネットワーク協同組合代表理事、平成27年 第3回「日本医師会 赤ひげ大賞」受賞。昭和45年 東京医科歯科大医学部卒、昭和47年 国立小児病院、国立療養所神奈川病院勤務。昭和54年 西嶋医院開設、平成元年 ボランティアグループ「暖家の会」設立、平成5年 センター建設促進住民の会 事務局長、平成8年 「ケアセンター成瀬」施設長、平成9年 西嶋医院を医療法人社団公朋会に改組。

この連載について

住民参加型の地域包括ケアを志向し、 コーディネーターとして住みやすい街づくりに尽力する

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。