再生医療が普及するために

この記事では、セルバンク社が提供する再生医療支援事業についてお聞きするとともに、日本の再生医療の中でセルバンク社が目指す役割について北條元治氏の思いを伺いました。

再生医療支援事業

再生医療の導入

—どういったクリニックに再生医療の導入をお勧めしますか?

北條:皮膚の再生医療であれば、「手術をしたくはないけれども自然な形で若返りたい」という層はやはりある程度いるので、そこにアプローチしたいクリニックに導入を勧めるというのはあります。

ただ我々が作る細胞をユーザーであるドクターが評価して、その中で評価を得ていたら我々が細胞をドクターに提供するという普通のビジネスになるかと思います。我々は単純に細胞を作るメーカーなので、どういうふうに使うかはドクターの判断です。

—セルバンクでは様々な種類の細胞を扱っていますが、疾患の種類によりサービスとして提供することの難しさに差はあるのでしょうか?

北條:やはり心筋梗塞はなかなか難しいですよね。保険適用に関しても、保険財源というのはもう決まっているのに昔ながらの治療に加えて色々な新しい先進技術がのってきて、おそらく再生医療が割って入る隙はないんじゃないかと思っています。

—やはり保険適用の関係で、どの分野・疾患でも再生医療がこれまでの治療に代わるということは難しいのでしょうか?

北條:変形性膝関節や美容などは命にかかわらないので(心筋梗塞に比較すると)サービスとして提供しやすいと思います。どこまでビジネスに乗せるかという意味では、まずは自由診療領域もしくはクリティカルじゃない疾患の部分で広まっていくと考えています。将来的にはもちろん不妊症の細胞や心筋の細胞も入ってくるかなとは思いますが、確証はないです。

—重要度や緊急度が高いものももちろんやりたいけれども、まずは美容などで市場を作って生産効率を上げてから、いずれそういった命に関わるものに手が向けられるかということですね。

製品としての細胞と工業製品との違い

—今までのお話から、細胞の培養というのは手作業で職人技のような印象を受けたのですが、これはやはり細胞一つ一つが違うということなんでしょうか?

北條:そうですね。細胞と工業製品との大きな違いというのが、細胞は生き物であって最終製品が工業製品よりも広い範囲でばらつくということです。細胞はどの条件で継代して、どの条件で出荷してというように条件の幅が広いですから、それを判断するのはまだ人の目ですよね。

※継代…培養細胞を引き継ぐこと。定期的に濃度を調整して、細胞が生きるのに最適な環境にすることを目的として行われる。

—まだその部分は機械で行うのが難しいというのが現状なのでしょうか?

北條:顕微鏡の写真を撮って、AIで解析して、継代していくというような自動で培養する装置も考えられてはいるんですが、一つの機械でものすごい金額になっています。将来的には分かりませんが、私が生きているうちはおそらく手作業のままだと思います。

導入するときの障壁

—再生医療を医療機関・クリニックで提供、導入するに当たって障壁となる部分はどこでしょうか。

北條:我々が全部サポートしているので金銭的な障壁も技術的な障壁もないでしょうね。以前は、細胞培養したり提出書類を作ったりなどがあったんですが、今はないでしょうね。

—手続きやメンテナンス、ある意味一番リスクが大きいところもセルバンク社が請け負ってやってらっしゃるということですかね。

北條:そうですね。完全に我々が請け負うというよりは紹介も含めてですがやっています。医療行為なので色々なレギュレーションがありますから、株式会社ができることは結構少ないんですよ。ただ我々に相談してもらえれば、色々なところとコミュニケーションをとってルートを確保しながら展開できます。

—クリニック経営者が興味あるとおっしゃられたら、何も問題なくすぐに始められるということですね。

セルバンク社の役割

スタンダードを作る

日本の再生医療の中で、セルバンクが果たしたい役割または果たしている役割を教えてください。

北條:(セルバンクは)基本的に製造業であって、医師が使うところは医療行為なので、我々の役目はシステムとして培養して医療機関に届けるというところのスタンダードを作りたいと思っています。皮膚や脂肪由来幹細胞など様々な細胞においてのスタンダード、それから迅速に広い範囲に届けることができる輸送の素地を作りたいと考えています。

株式会社セルバンクの基本情報

会社名株式会社セルバンク
ホームページhttps://cellbank.co.jp/
所在地東京都中央区勝どき1丁目13-1 イヌイビル・カチドキ 3F
TEL / FAXTEL:03-5547-0207 / FAX:03-5547-0208
事業内容特定細胞加工物製造事業、細胞保管事業、再生医療支援事業

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部(新垣)   

薬学・生物学を専門的に学んだメンバーが在籍。ミクロな視点で最新の医療を見つめ、客観的にその理想と現実を取材する。科学的に根拠があり、有効である治療法ならば、広く知れ渡るべきという信念のもと、最新の医療情報をお届けする。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。