#04 その人の尊厳を尊重しながら、治療は家で行う。病気は家で治す

神経内科医でリハビリテーション医でもある石垣泰則氏は、在宅医療の第一人者である佐藤智氏の「病気は家で治す」の教えに強い感銘を受け、20年以上に及び神経内科専門の在宅医療に取り組んでいる。 その経験の中で、家や家族、そして地域そのものに治癒力が宿っていることを実感すると語る。 「リハビリテーションの真髄は在宅に在り」と信じ、日常診療に取り組んでいる石垣泰則氏は、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会の副会長として、在宅医療体制の充実を目指す活動にも日々尽力している。 (『ドクタージャーナル Vol.25』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

佐藤智先生から薫陶を受け在宅医療に進む

― 佐藤智先生との出会いが、在宅医療をライフワークとして取り組むきっかけとなった、と伺いました。―

在宅医療の第一人者だった佐藤智先生と初めてお会いしたのは、1994年に佐藤智先生が「在宅医学を確立しよう」と呼びかけて発足した「在宅医療を推進する医師の会」に参加した時でした。

佐藤智先生は、在宅医の患者さんに向き合う姿勢を「患者さんを、一人の人としてしっかりと支えながら最期まで病気を診ること。

最終的には亡くなられる重い病気を持たれた患者さんであっても、その人の尊厳を尊重しながら、治療は家で行う。病気は家で治す。という心意気を持って診療にあたる。」と、明確に力強く語ってくださいました。

佐藤 智(さとうあきら)氏

在宅医療の第一人者 元日本在宅医学会会長
1948年、東京大学医学部卒業。東京白十字病院院長、南インド・クリスチャン・フェローシップ病院勤務を経て、1994年「在宅医療を推進する医師の会」を設立する。※現在の「日本在宅医学会」の前身。1981年患者とその家族とともに会員制の在宅医療組織「ライフケアシステム」を設立する。1981年に保健文化賞を受賞。2016年11月死去

在宅医療のあるべき姿とは

それまでの私は、病気を治す事が医師の仕事、と思っていました。

しかし、佐藤智先生から、「生きている人間には必ず死が訪れます。死ぬまでの生をその人らしく、できるだけ健全にサポートすることが医師の役目であって、治せない病気を治そうとする、あるいは生き永らえさせるということは医療の本質とは違います。」と、鋭く指摘されました。

必要な治療は行いますが、無益な延命は行いません。必要なことはきちんとする。でも患者さんにとって無益なことはしない。ということです。

ですから、患者さんに最期まで付き添って、最期の最期まで苦しまずに、その人らしく生活できているか、家族も安心しているかな、というところをしっかりと見ながら、診療を続けることに心を砕いています。

その後、佐藤智先生は「在宅医療を推進する医師の会」を「日本在宅医学会」に発展させて、さらに多くの医師が在宅医療を学べる場を広めることに尽力され、私もその活動にご一緒させて頂きました。

「病気は家で治すもの」

佐藤智先生からは受けた、「病気は家で治すもの」の教えと薫陶は、私の在宅医療の信念となっています。

我々在宅医は、患者さんを家(自宅)で治すことによって、病状が病院よりも良くなるという状況に、しばしば遭遇します。

がんの患者さんが疼痛緩和でモルヒネを使っている場合でも、家に帰ってきて家族と普通に生活すると、モルヒネの量が病院で投与されている時よりも減ることがあります。

認知症の診療でも、病院で認知症が進んだお年寄りを家に帰して普通の生活に戻すと、認知症の症状が穏やかになるということがあります。

それは、自宅に宿っている日本人特有の家族の情のようなものが大きいのではないかと思いますし、家や家族そのものに治癒力が宿っていることを実感します。

そのような事象を見落とさないように大切にしながら、患者さんの在宅での生活を医療の面から支えていくことが在宅医の務めでもあります。

この記事の著者/編集者

石垣泰則 コーラルクリニック 院長 

一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長、一般社団法人日本在宅医学会理事、
医学博士、日本内科学会認定内科医、日本神経学会神経内科専門医、日本在宅学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本医師会認定産業医、介護支援専門員
1982年順天堂大学医学部卒業、順天堂大学医学部脳神経内科入局、1990年城西神経内科クリニック開業、1996年医療法人社団泰平会設立 理事長、2009年コーラルクリニック開院

この連載について

「その人の尊厳を尊重しながら、病気は家で治す。最期まで寄り添う。」

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。