#04 高瀬義昌氏「薬を整理することでQOLと身体機能が上がる。」

東京都大田区で訪問診療を中心に取り組む「たかせクリニック」。院長の髙瀬義昌氏は臨床医学の実践経験・家族療法の経験を生かし、「高齢者が安心して暮らせる街」作りに取り組んでいる。 高瀬義昌氏の活動は、24時間在宅診療、医師会、地域ケア行政、日米医学医療交流、執筆、テレビ、マスコミでの啓発活動等、幅広い分野に及んでいる。 「認認介護」という言葉で、認知症の人が認知症の人を介護しているという現実を最初に訴えたのも高瀬義昌氏だ。 同氏は、在宅療養空間というシステムを安定させること、『システムスタビライザー』として機能することが在宅医療の役割だという。 (『ドクタージャーナル Vol.17』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

薬を整理することで症状をコントロールする

在宅医療では、薬(医療)が2割、ケア(介護)が8割というのが、私の持論です。

薬を整理し、時には減らすことで高齢者の生活の質(QOL)と身体機能が上がる経験を何度もしました。歩けなかった人が歩くようになるケースも珍しくありません。

患者さんが症状を訴えるたびに薬が増える。医師も専門領域でない薬の副作用には気付きにくいということがあります。

また、高齢者には注意が必要な薬も種々ありますが、慎重投与すべき薬が安易に出されていたり、分量が多すぎたりするケースも多くあります。

特に睡眠薬には注意が必要です。効果が切れるとき、意識混濁や幻覚が出やすい傾向が高齢者にはあります。眠れないのには必ず原因があります。

認知症と診断されたことによる不安とか、家族との関係が良好でないとか。

まずご本人から話を聞いて眠れない原因を探り、カウンセリングをしながら対処していくことが必要なのです。

抗認知症薬の服用はできるだけ早期のタイミングが望ましいですが、多剤服用による症状がみられる場合は、薬剤をできるだけ整理して症状が安定してきてから抗認知症薬を始め、継続することで認知症の症状が安定化していく傾向が多くあります。

多剤服用の状況から、症状を薬でコントロールすることは困難を極めるため、時には処方内容の見直しも視野に入れます。特にレビー小体型認知症は抗精神薬などに対する過敏性がありますので注意が必要です。

処方の見直しや薬を減らした直後は注意深い観察を要します。在宅医療の現場では、家族や介護者の協力と共に医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、ヘルパーなどを含めた多職種での「チーム・モニタリング」による協働が必要です。

― 髙瀬義昌氏の在宅認知症高齢者の実例として、1日に15種類27錠を処方されていた80歳の認知症高齢者を、5種類7錠に変更したところ、数日後には歩けるようになり、夜もぐっすり眠れるようになった。

せん妄や徘徊もなくなり、それまで激しかった暴言や暴力などの認知症の周辺症状(BPSD)だと思われていた行為も治まって、デイサービスにも通えるようになったという。

その高齢者は50歳代からの慢性疾患もあって、ペインクリニック、内科、精神科、整形外科などと、その都度診療科が増えるたびに薬も増えていった結果、計15種類の薬を処方されていたという。

しかも驚くことに、それらの薬剤を1か所の調剤薬局で受けていたという。

薬を減らした結果は症状の改善だけでなく、1日分の薬価差額704円、年間では約26万円もの医療費の節約にもなったという。髙瀬義昌氏によるこの事例は国会議員も取り上げて大きく話題になった。―

この記事の著者/編集者

高瀬義昌 医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長 

医療法人社団至髙会理事長、医学博士、認知症サポート医。
1984年、信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。麻酔科、小児科研修を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年、東京都大田区に在宅医療中心の「たかせクリニック」を開業する。在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。『はじめての認知症介護』『自宅で安らかな最期を迎える方法』など著書多数。

この連載について

在宅医療のフィールドを使ったハイパフォーマンスヘルスケア

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。