デザインや設置場所で全く違う!患者さまの記憶に残る看板とは?

誰もが知るようなブランド力のある店舗であれば、店名とロゴが書かれている看板を見ただけで認知されます。

しかし、クリニックにおいては認知してもらうためにより多くの情報を提示しなければなりません。患者さまが体調不良等で受診を考えた際に思い出してもらえるよう、印象づける必要があります。

今回は自院を患者さまの記憶に残るクリニックにする方法についてご紹介します。

立地の重要性を思い知った実体験

私の母は眼科の開業医です。1980年代のバブル景気の頃に東京都23区内の住宅街で開業しました。開業当初は最寄り駅から徒歩6分くらいにあるビルの2階(30坪)で、商店街に面してはいたものの目立つビルではなく大きな看板を設置するスペースもなく、通りかかる人にはなかなか認知されませんでした。徐々に患者さまを増やすことができ、拡大移転できたのは開業から約10年後のことです。

移転した場所は、前の場所から徒歩1分。最寄り駅からは徒歩7分くらいの距離にあり、商店街に面していないビル1階(45坪)のコンビニ跡地でした。間口が広く大きな看板も設置できたのも良かったのでしょう。

「1階に移転してから新規患者さんが増えたのよ」と喜ぶ母の姿をよく覚えています。新しく増えた患者さまは10年前から同じ土地で開業していたことを知らず、移転して初めて存在に気づいたという方もいらっしゃいました。

その後、新規患者さまは順調に増え続け、より好立地の物件に拡大移転を繰り返してきました。内装費用など、移転時には少なくないお金がかかりますが、母にとっては心機一転する良い機会にもなっていたらしく、モチベーションの向上にも繋がっていたようです。

看板に掲載すべき情報とは

クリニックの外観だけではどんな施設なのか分からないため、自院のことを知ってもらうためには看板がとても重要です。

看板に診療科名は入っていますか?

患者さまにとって一番大切な情報は、何を診てくれるところなのかということです。そのため、クリニック名しか書いていない看板だと、患者さまが体調不良等になったときに思い出してもらえません。診療科名は書かれているものの、文字が小さくて読みづらい看板も同様です。

基本的に看板というのはじっくり見られるものではありません。移動中になんとなく視界に入ることが多いので、一瞬で情報が伝わることが大切です。患者さまが最も重視する診療科名は、目立つように記載しましょう。

また、2階以上に位置するクリニックについては、診療科名とクリニック名に加えて何階にあるのか載せるのがおすすめです。最も目立つ正面看板以外に補助的な看板を設置できるのであれば、診療時間や休診日、電話番号、予約制の有無などの基本情報を記すと良いでしょう。

看板の種類

看板には次のような種類があります。

ファサード看板

ファサード看板は建物の正面に設置するもので、クリニックの「顔」とも言える重要な看板です。そのため目立つことも大切ですが、分かりやすいこと、そしてクリニックに適した好印象を残すデザインであることが望まれます。

ちなみに看板の照明にはLEDの入っている内照式と、外から照らす外照式があります。夜間は内照式のほうがよく見えて認知されやすくなるため、夜間に人通りが多いなら内照式を検討してみると良いかもしれません。

ガラスシート

クリニックの入り口扉や窓などのガラス面に情報を貼りつけるタイプの看板です。ガラスシートやウィンドウサインと呼ばれています。物件によっては看板を出すのに賃料とは別で費用が必要なこともありますが、これなら十分に自院の存在をアピールできるので宣伝にかける経費削減にもなり得ます。

また、患者さまのプライバシー保護や紫外線カット、災害時のガラス飛散防止など、単なる看板以上にさまざまなメリットがあるのが特徴です。

壁面看板

建物の壁面に貼りつけた看板の総称です。最近では写真を貼ることもできるようになりました。どのようなデザインにするかにもよりますが、建物の壁面という大きな面積がそのまま看板になるのでクリニックの存在に気づいてもらいやすく、患者さまからの認知度を上げるのに効果的です。柱や壁をファサード看板と同じ色にして、間口を大きく目立たせるという活用方法もあります。

チャンネル文字

文字を立体的に加工した看板で、平面的な看板よりも高級感があります。

袖看板

建物の壁面から突き出すように設置された看板を袖看板、または突き出し看板と呼びます。遠くからでも見えやすいので、視認性が高いのが特徴です。大きな道路沿いによく設置されているポール看板も同種のものと見なされることもあります。

A型看板

看板を横から見るとAの文字に見えることからA型看板と呼ばれています。しかし道路上に置いて使うものなので、テナントによっては設置を禁じられている場合もあり注意が必要です。設置を希望するのであれば、物件契約前にオーナーへ確認を取っておきましょう。

スタンド看板

A型看板よりも設置のための面積が小さくて済みます。とはいえ、A型看板と同じく設置に許可が必要な地域もあるので、必ず発注する前に設置可能かどうかを確認しておいてください。

野立看板

クリニックの敷地以外に立てる看板を野立看板と呼びます。大きな道路沿いに「〇〇まで△m」などと書かれている大きな看板を見かけたことはありませんか? あれらが野立看板です。単独で設置されることもあれば、駅中にある多くの看板のように複数の看板が一緒に設置されることもあります。

電柱看板

電柱に掛けたり巻いたりする看板です。主な効果はクリニックへ向かう人に道案内をすることですが、そもそも電柱看板がないと見つけられないような場所でクリニックを開業すべきではありません。通りがかる人が少ないと、新規患者さまの来院があまり見込めないからです。

ただし、近隣に移転したときなどは「移転後の場所はこちら」といった具合に活用することもできます。

駅看板

特に住宅街が近くにある駅では、クリニックの駅看板を見かけることがあります。つい「自分のクリニックもあった方がいいのでは」と考えがちですが、私は出すべきではないと思います。

月額の費用だけでなく看板制作費用や撤去費用がかさむにも関わらず、認知度を高める効果は薄いからです。近年はホームで電車を待っている人の大半がスマホを見ているため、看板を意識してもらえることは少ないでしょう。

交通広告

電車、バス、タクシーの車内に設置もしくは音声でアナウンスしてもらう広告です。費用がかさみ採算が取りにくいです。とはいえ、もし興味があるなら地域密着型であるバスを選ぶと良いのではないでしょうか。路線によって利用者層や回る地域が異なるので、出稿前によく調べておくことが大切です。

認知されやすい看板の位置

ここまで看板の種類についてご紹介してきましたが、クリニックに適した看板を選ぶだけではまだ足りません。看板の位置も非常に重要です。

人が見ている位置は思っている以上に低いので、看板を高すぎる位置に設置しないように気をつける必要があります。特に壁面看板やスタンド看板は目線の高さに設置するようにしましょう。

物件が空中階の場合は1階などの目立つ位置に看板を出せるか確認するのも一つの手です。クリニックが2階にあり階段が道路に面した位置にあるなら、1階の階段入口にも看板を設置できるとより良いでしょう。

また、看板は通行方向と平行に設置するよりも垂直に設置するほうが視界に入りやすいので認知されやすくなります。歩行者はまず袖看板やA型看板が目に入り、次にファサード看板を見ることが多いです。そして、道路に面しているクリニックの壁面やガラス面には、カッティングシートやインクジェットシートなどで診療科名、診察時間、休診日などを載せておくと、ファサード看板から自然に目につきやすくなります。

車社会では、運転席から見える位置に分かりやすい大きさ・デザインの看板を設置します。幹線道路沿いにある他業種の看板も参考にしつつ、看板を制作すると良いでしょう。

また、人や車が立ち止まりやすい信号機や横断歩道の近くは看板に気づきやすい場所です。どこにどのような看板を設けるべきか、下見の時点から考えておくとスムーズに準備が進みます。

下記の記事でも看板について詳しくまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください。

関連:クリニックの運命は開業前に決まる!失敗しない開業場所の選び方

開業医にとってメリットのある立地

本連載では患者さまを集めやすいクリニックの立地に焦点を当ててきましたが、最後に開業医の生活面から見た立地について考えていこうと思います。

購入よりは賃貸を

クリニックを開業するなら賃貸物件をおすすめします。なぜなら、賃貸の方が購入に比べて開業候補地となる好立地の場所が多く、また将来移転できる方が有利になるからです。そもそも好立地の場所は店舗向けの賃貸物件となっていることが多く、特に電車社会では売買できる土地として購入できることはごく稀です。

また、土地を購入してクリニックと住宅が一体となった建物を建築した場合、クリニックが予想以上に繁盛したり、子どもが増えたりして手狭になっても面積を増やすことができません。経営状態が良くない時に移転するのも困難でしょう。ですから、今後もし近隣に競合クリニックができた場合、患者さまが流れてしまって利益が下がっても手を打ちにくいのです。

一方、賃貸であれば購入物件のような制限はないので、身軽に移転できます。クリニックの規模を状況に合わせて拡大・縮小できるのは大きなメリットです。

ただし、競争が激しくない地域や親子間での継承開業であれば、好立地の土地を購入して開業するのも選択肢の一つだと思われます。

通勤時間は短く

開業医の多くは、引退するまでずっとクリニックで働くわけですから、長い通勤時間は望ましくありません。クリニックが自宅から徒歩10分であれば、1日の通勤時間は往復20分ですが、自宅から最寄り駅まで徒歩10分+電車25分+最寄り駅からクリニックまで徒歩5分であれば、1日の通勤時間は往復80分。1日あたり60分も余計に時間がかかります。

60分の差を時給ベースで換算すると、時給1万円の医師なら1万円になります。売上ベースでは、1時間に単価5,000円の患者さま8人を診療する医師なら4万円です。通勤時間を診療に充てたほうが合理的だと思いませんか?

もちろん人によってそれぞれの価値観がありますので、通勤時間が長いことを否定しているわけではありませんが、70歳を超えても現役の開業医は数多くいらっしゃいます。高齢になってからも通勤し続けることを考えると、肉体的な負担は少ない方が良いかもしれません。

家を買う時期

まだ家を買っていない方限定での話になりますが、開業するまでは家を買わない方が良いという考えもあります。実際、開業までは賃貸住宅に住み、開業して収入が安定してから家を買う人もいます。

開業して1日あたりどれくらいの新規患者さまが来院するかが分かるようになると、競合が増えて新規患者さんが減るリスクはあるにせよ、5年後、10年後の患者数を推定することができます。そうすると大体の収入が予想できるので、最大でどれくらいの価格の土地・建物、マンションを購入できるかがある程度見えてくるはずです。

住みたい街に住むのも選択肢

患者さんが集まる開業場所という観点とは別に、住みたい街を選ぶことができるのも開業の魅力と言えるでしょう。好きな街・住みたい街であれば、多少競合が多い地域で収入が少なかったとしても頑張って経営を続け、幸せに生きていけるということもあるでしょう。

既に持ち家がある場合は自宅を賃貸に出したり売却したりすることを検討しても良いのではないでしょうか。住む場所は自分のライフスタイルだけでなく、配偶者や子どもの人生にも影響します。

たとえば小さいお子さんがいる場合、教育環境が整った小学校や大手学習塾がある場所が候補になるでしょうし、中学受験や高校受験をする際には、志望する学校に通学できるかどうかなども関係します。自分や配偶者の親や友人などがどこに住んでいるのかも大事なことかもしれません。家庭を持っているのであれば、時間をかけてよく相談したうえで最適な選択をしてください。

後悔しないスタートを

私のもとへ相談に来る開業医の中には、立地選びに失敗して経営難に陥ってしまったり、同じことの繰り返しでモチベーションが下がってしまったりした方が少なくありません。売上を確保することは当然のことながら、自分自身を上手くコントロールしつつ望ましい形でクリニック経営できることが大切です。

そのためにも開業前や開業直後の時期こそ、さまざまな角度から物を見て考えを煮詰めていく必要があります。何年、何十年経っても独立開業して良かったと思えるように、後悔しない選択をしてください。

クリニックは立地で決まる!患者が集まる開業場所の選び方

この記事の著者/編集者

蓮池林太郎 医療法人社団SEC 新宿駅前クリニック院長 

1981年、東京都生まれ。5児の父。医師。作家。帝京大学医学部卒業。2009年、新宿駅前クリニック開業。2011年、医療法人社団SEC設立。クリニックの開業支援や経営コンサルティング、記事執筆、講演などをおこなう。著書に「競合と差がつくクリニックの経営戦略―Googleを活用した集患メソッド」(日本医療企画)、「患者に選ばれるクリニックークリニック経営ガイドライン」(合同フォレスト)など。

  医療法人社団SEC理事長
  新宿駅前クリニック 皮膚科 内科 泌尿器科 院長
  蓮池林太郎(はすいけりんたろう) 
  蓮池林太郎ホームページ:https://www.hasuikerintaro.com
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この連載について

クリニック経営は開業場所で決まる。立地選びの大原則

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。