地域のかかりつけ医として活躍するために必要なこと

前回記事かかりつけ医にとっての外来診療の意義を踏まえて、これからのかかりつけ医の役割や、次世代のかかりつけ医養成のビジョンを西嶋医師・英医師に語っていただきました。

街づくりも地域のかかりつけ医の役割のひとつ

英:西嶋先生は住民参加型の街づくりにも積極的に取り組んでこられていますね。

西嶋:地域包括ケアにとって、医師にはある種のオピニオンリーダーたるべき役割があると思います。医師が偉いということでは決してなくて、地域の医師は行政に対して力を発揮できることがあるはずということです。

来るべき高齢社会を見据えた時に、地域包括ケアを支えるには専門職だけでは絶対に足りません。その時に必要となるのは、資格を持たない普通の人です。本来の地域包括ケアとは、たくさんの人たちが、それぞれの役割を持って地域づくりに参加するということだと思います。

住民参加型の街づくりでは、一人ひとりがそれぞれの役割意識を持って参加することが重要だと思い、地域の人のボランティアによる参加型を目指した地域ボランティアグループ「暖家の会」を設立しました。

地域包括ケアの中には、医療保険や介護保険などの制度上で賄われるサービスもあれば、保険制度や行政サービスの狭間にあるサービスもあります。その狭間にあるサービスを誰がやるのか。その時に私が考えたのは、資格を持たない普通の人たちによるボランティアグループでした。

「暖家の会」では、人が動くことでできるサービスにいろいろと取り組みました。最初は、利用者さんが自由に楽しく過ごせるミニ・デイサービスから始めました。主婦の会員が余分に作った食事を、老々介護のお宅と一人暮らしの男性に限定して提供する配食サービスや、時には訪問入浴サービスも行いました。また、介護に関する勉強会やセミナーなども精力的に行い、地域に住民参加型の街づくりの種をまいてきました。

平成4年に、私の住んでいる東京都町田市成瀬台にあった市の公用地に、コミュニティーセンタ―の機能も持ったケア施設を住民の手で建設しようという請願活動を始め、2ヶ月で4,500名の署名を集め、「自ら運営しケアの自給自足を目指すケアセンター」という住民参加型のスタイルを町田市に提示しました。

請願書では、運営を外部に委託するのではなく、ケアから食事サービスまで全ての高齢者ケアを地域の自分達でやらせてください。と訴えました。当時は介護保険もまだない時代でしたから、私たちの提案も一つの形と認められ、市長からゴーサインが出て、調査費用の予算を確保してくれました。

平成5年から平成8年のセンター開設まで、「センター建設促進住民の会」という住民組織が1000名以上の参加で準備し、「ケアセンター成瀬」はオープンしました。土地は町田市からの無償貸与で、建設費と備品等は国と東京都と町田市からと、全て公費で建設されました。私は「センター建設促進住民の会」の事務局長という立場で関わり、完成後はセンターの施設長として運営に参画しました。

行政との折衝などでは、私は地域のオピニオンリーダーとして医師という立場をフルに活用しました。

英:西嶋先生のお話を伺っていると、かかりつけ医として地域に対しての並々ならぬ強い想いを感じます。私も、地域を健全にすることや健康な地域づくりを進めていくことは、地域のかかりつけ医の大切な役割のひとつだと考えます。

地域包括ケアの中核となるかかりつけ医を養成したい

西嶋:自分が根を下ろしている地域ではどんなことが必要とされているのかを考えて、地域のアセスメントができる、地域包括ケアの中核となるかかりつけ医を育てることが、今こそとても重要だと感じています。

英:外来で予防医学とか糖尿病を診る医師とか、在宅の専門医を育てることは比較的容易にできると思います。

しかし総合診療的に外来診療を行っている医師はまだ少ないでしょうし、さらに西嶋先生がおっしゃるように地域とコミットメントしていけるかかりつけ医を育てるとなると、とてもハードルが高いですね。

西嶋:確かに地域には色々な地域特性があり、それぞれに地域特有のニーズがあります。例えば、地方の豪雪地域では冬の間はお年寄りが孤立してしまいます。

であれば町役場のそばなどに、お年寄りのための冬季専用の共同住宅を作り、そこに隣接して診療所や訪問看護ステーションを作り、冬の間はそこで高齢者の面倒を見るとか、それぞれの地域特性に合わせた色々な取り組みができると思います。今までの経験上、それは可能だと思っています。

英:確かにそれぞれの地域性があり、地域ごとのソリューションがありますよね。

西嶋:今、様々な地域が様々な問題を抱えています。今後さらに地域の高齢化も進んできます。かかりつけ医は、これからはその地域の中で自分はどんな役割を持ち、何をしなければいけないかということを学ばなければいけないでしょう。

それをネットワーキングで互いに共有し合い、色々な意見を聞きながら互いに問題を解決していくことができれば、地域のかかりつけ医を孤立させないで育てていける、という思いもあります。

私は自分の経験から、地域包括ケアは医療関係者がそれなりの広い視野を持って地域をリードしていかなければならないと感じています。

今の若い医師たちは、地域のかかりつけ医として十分に活躍できるための教育を受けてきていません。地域におけるかかりつけ医の重要性と役割、その手応え、例えば地域の看取り率を上げるとか、こんな街にしていきたいとか、そこに自分がどんな役割を持つのか、などをしっかりと伝えられれば、地域包括ケアの中核となるかかりつけ医を育てことができるのではないかなと考えています。

かかりつけ医療を学ぶための養成講座

西嶋:今考えているのは、かかりつけ医について、まず座学で総合的にしっかりと学び、その後一流の医師たちの下でかかりつけ医療の現場研修を受ける。という「かかりつけ医養成講座」です。

この養成講座は、現役の診療所医師や、在宅医療に関わる地域包括ケア病棟勤務医のブラッシュアップと、これから地域で開業を目指す医師の育成を目指しています。

医師の開業でよくありがちな例として、医療コンサルタントや開業コンサルタントを入れて、それまでは循環器の専門医だった医師が、総合医のかかりつけ医としてそれまで知らない土地に新規開業し、その後は在宅も始めるというような話があります。

診療科目の自由標榜制の日本ではそれができてしまいますが、現実はそれでうまくいくとは思えません。イギリスなどでは、ジェネラリストになるには1年間の研修が必要で、専門医から突然総合医になるなどということはできません。

ですから、養成講座を受講し、実際にかかりつけ医療の現場研修を受けた若い医師たちが、それまで地域に根ざしてかかりつけ診療を行ってきた高齢の先生の跡を引き継ぎ、地域医療を無理なく上手にバトンタッチをして患者さんたちを診ていく。という地域に根差した医業継承の仕組みも考えています。

英:今までにない、斬新な取り組みですね。かかりつけ医として地域で実績をあげている先生たちから現場研修を受けることができれば、とても効果的だと思います。

西嶋:それは大きな学びになるはずで、その体験の中から必ず得る物があるはずです。私はその仕組みを作りたいと考えています。

英:そうですね。そのような体験を通じて、かかりつけ医療の素晴らしさとか、手応えとかを感じることは、とても大切だと思います。

これからの地域医療の中心となっていくのは、強い思いを持ったかかりつけ医たちです。そして、かかりつけ医が地域も変えていけます。

英:今日はありがとうございました。とても興味深くお話を伺わせて頂きました。

西嶋:こちらこそありがとうございました。

西嶋公子(にしじま きみこ)
医療法人公朋会 理事長
医療法人社団公朋会理事長、西嶋医院院長。社会福祉法人創和会理事長。NPO在宅ケアを支える診療所市民ネットワーク理事、社会福祉法人創和会理事長、町田介護支援ネットワーク協同組合代表理事、平成27年 第3回「日本医師会 赤ひげ大賞」受賞。昭和45年 東京医科歯科大医学部卒、昭和47年 国立小児病院、国立療養所神奈川病院勤務。昭和54年 西嶋医院開設、平成元年 ボランティアグループ「暖家の会」設立、平成5年 センター建設促進住民の会 事務局長、平成8年 「ケアセンター成瀬」施設長、平成9年 西嶋医院を医療法人社団公朋会に改組。
英裕雄(はなぶさ ひろお)
新宿ヒロクリニック 院長
医療法人三育会理事長、新宿ヒロクリニック院長。1986年慶応義塾大学商学部を卒業後、93年に千葉大学医学部を卒業する。96年に曙橋内科クリニックを開業し、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業する。2015年に現在の新宿区大久保に新宿ヒロクリニックを移転、開業し、現在に至る。

この記事の著者/編集者

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