地域包括ケアの中核となるかかりつけ医の役割とは

東京都町田市の西嶋医院で院長を務める西嶋公子医師と、新宿で新宿ヒロクリニックの院長を務める英裕雄医師は、ともに長年在宅医療に取り組んできました。本記事では英医師が聞き手となり、西嶋公子医師にターミナルケアにおけるかかりつけ医の役割について語っていただきました。

取材協力:西嶋 公子氏/英 裕雄氏

西嶋公子(にしじま きみこ)
医療法人公朋会 理事長
医療法人社団公朋会理事長、西嶋医院院長。社会福祉法人創和会理事長。NPO在宅ケアを支える診療所市民ネットワーク理事、社会福祉法人創和会理事長、町田介護支援ネットワーク協同組合代表理事、平成27年 第3回「日本医師会 赤ひげ大賞」受賞。昭和45年 東京医科歯科大医学部卒、昭和47年 国立小児病院、国立療養所神奈川病院勤務。昭和54年 西嶋医院開設、平成元年 ボランティアグループ「暖家の会」設立、平成5年 センター建設促進住民の会 事務局長、平成8年 「ケアセンター成瀬」施設長、平成9年 西嶋医院を医療法人社団公朋会に改組。
英裕雄(はなぶさ ひろお)
新宿ヒロクリニック 院長
医療法人三育会理事長、新宿ヒロクリニック院長。1986年慶応義塾大学商学部を卒業後、93年に千葉大学医学部を卒業する。96年に曙橋内科クリニックを開業し、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業する。2015年に現在の新宿区大久保に新宿ヒロクリニックを移転、開業し、現在に至る。

かかりつけ医とは患者さんの人生に最期まで寄り添う存在

英:本日はよろしくお願いします。

西嶋先生は、かかりつけ医として40年以上にわたり地域の医療に取り組まれてきました。近年、かかりつけ医制度については、新たに診療報酬改定が行われたり、地域におけるかかりつけ医の重要性が取り上げられたりしています。西嶋先生は、かかりつけ医の役割をどのようにお考えですか。

西嶋:私は、かかりつけ医とは、地域で暮らす赤ちゃんからお年寄りまで、全ての患者さんの人生に寄り添って、それこそマラソンの伴走者のように患者さんと一緒に走りながら、その時々に必要とされるものを適切に提供する医師のことだと思っています。

そして、人生のマラソンのゴールがターミナル(終末期)といえるでしょう。そのゴールまでに必要とされるものも、患者さんそれぞれに違います。それを時々に適切に提供しながら看取りまで行い、看取りの後に残された家族のグリーフケア(大切な人との死別により悲嘆に暮れる人を、立ち直れるように支援すること)までもが、かかりつけ医の仕事だと思っています。

さらに付け加えれば、医師として病気を見つける・治す時には専門医や病院に紹介するという医療だけでなく、患者さんが抱える日常の困りごとの相談に乗ることも、かかりつけ医の仕事だと思っています。

英:患者さんの人生に寄り添う伴走者が、かかりつけ医の役割ということですね。

西嶋:そうですね。地域の中で患者さん一人一人の大切な人生に、最期まで寄り添っていくのがかかりつけ医の役割だと思うのです。生活者に寄り添うところが専門医とは違うところだと思います。

かかりつけ医は優れたケアマネジャーでもあるべき

英:かかりつけ医診療と総合診療の違いとは何でしょうか。

西嶋:かかりつけ医診療の機能の中に総合診療が入ってくるのだと思います。

英:かかりつけ医のベースには総合診療があるとも言えますね。 

西嶋:今の医学教育は臓器別に専門分化が進んでいて、それがさらに細い部分に及んでいて、その結果、その人の臓器しか診ないという医師が増えている気がします。

問題は患者さんを、一人の生活者として見ていないという点にあります。一人一人の患者さんにきちんと向き合い、100人の患者さんがいれば、そこに100様のQOL(Quality of life)やQOD(Quality of death)を考えていく。

こんな話がありました。患者さんの中にはお風呂が好きな人もいれば大嫌いな人もいます。もう最期だからと言って、家族がご本人をお風呂に入れました。お風呂が好きであればご本人は喜ぶでしょうが、大嫌いな人には苦痛でしかありません。そのお年寄りは、無理やりお風呂に入れたことに抗議してハンガーストライキをしました。

自分達の思い込みではなく、患者さんの家族関係や生活状況、どの程度の介護力があるのか、病気だけでなく生活も含めて患者さん一人一人をアセスメントし、この人は本当は何を望んでいるのか、その人一人一人のニーズや希望に沿ったケアを提供していく。

それが私たちかかりつけ医の立場だと思っています。患者さんのことをどれだけ知っているかということがすごく重要で、そうでなければ、より良い医療やケアを提供することはできません。

外来では赤ちゃんの頃から診ていた患者さんが親になって、今度は自分の子供を連れて来たりもします。三世代にわたって看取っていたり、その看取りへの家族の関わり方までも見ていたりしますから、それこそ患者さんのことなら家族のことまで全て分かっています。患者さんをよく知っているから、適切なケアプランを立てることができ、それを他の職種にもきちんと伝えていくことができます。

ですから、かかりつけ医は優れたケアマネジャーでもあるべきだと思っています。

患者さんの自分史を知っているかかりつけ医だからできる真のターミナル・ケア

西嶋:自分の患者さんには、できる限りの納得や満足がいく最期を迎えてほしいと常々思っています。昨今の在宅でのターミナル・ケアや緩和ケアでは、患者さんの最期の部分だけに関与して、何週間とか何か月という単位で看取りまでのケアを行うというようなケースも多く見受けられます。

でも私が患者の立場だったら、人生の最期の時に、そこで初めて出会う医者や看護師に素直に自分自身をさらけ出して、自分の最期の治療を委ねることはできないと思ってしまいます。何故ならば、その人のこれまでの生き方、生き様を知らないと、本当の意味でのターミナル・ケアはできないからです。

かかりつけ医が、その人の人生に寄り添ってきた中で、その人の自分史、例えば今までどんな嬉しいことや、悲しいことがあったのか、どんな経験をしてきたのか、どんな性分なのかを十分に分かっていれば、患者さんの最期に残された幾つかの選択肢の中から、この人だったらこちらの選択肢を選ぶだろうというようなことは、容易に分かるのです。

それがターミナル・ケアや緩和ケアにとってもすごく大事なことだと思うのです。

ターミナル・ケアの最後はグリーフケア

西嶋:私はターミナル・ケアの最後の役目はグリーフケアだと思っています。

最近では、24時間365日、在宅診療でターミナル・ケアをしている先生たちはたくさんおられます。問題だと思うのは、患者さんが亡くなられて死亡診断書を書いたら、そこで患者さんやその家族との縁が切れてしまうことです。残された遺族たちはこれからどうやって生きていくのか。悲しい別れを体験した上に、なおその後の自分の人生を最期まで生きなければいけない。

誰がその人達をフォローするのかといえば、それは最期まで関わった私達だと思うのです。大切な人を失った後の悲しみやショックから乗り越えてゆく過程を精神的にサポートしていくことも、かかりつけ医の大切な役割です。

外来診療では、そんな人たちが患者さんとして来てくれますから、その後の話を聞くことも、相談に乗ることも、元気づけることもできます。

英:普通に外来診療を行いながら、それがグリーフケアにもなっているのですね。

西嶋:親族の看取りに息子や娘や孫など家族が関わることが、自分たちの生き方や死に方を学ぶことになります。それは死の準備教育といえます。そのことも私たちが伝えていかなければいけないことです。

西嶋医院の外来は、まるで患者さんのよろず相談所みたいな様相を呈しています。いろいろな思いや悩みを吐き出す場が必要なのだと思います。息子や娘には言えないけれど、かかりつけ医の私にだったら言えることもあれば、奥様が知らない亡くなられたご主人の一面を話してあげたりとか、一緒にお看取りをしたということが、残された家族との大きな絆や癒しになっていたりするのです。

続く

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部   

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