#03 ロービジョンの方たちにとって暮らしやすい世の中になっていって欲しいと思います。

ユニバーサルデザインとは、障害の有無や年齢、性別、人種などにかかわらず、多くの人々が利用しやすいように製品やサービス、環境をデザインするという考え方である。 132年の歴史を誇る「井上眼科病院」および「お茶の水・井上眼科クリニック」では、眼の見えづらい方、体の不自由な方、お年寄りやお子様など、さまざまな方が安全に安心して通院、入院できるように、誰もが使いやすいユニバーサルデザインを導入して、快適な病院空間づくりに取り組んでいる。 (『ドクタージャーナル Vol.7』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

私たちの取り組みはこれからも続きます。

私自身も、総合病院などで動線がわかりづらい経験もあったので、来てくれた人にわかりやすいものにすることはストレスが軽減されることを実感しています。

作ってからも院内地図の模様や色を変えました。色の見分けがつきにくい方たちにも対応できるような現在の色でのゾーン分けも、完成後に改良した結果です。

一度作ったら完成ではなくて、不備なところを患者さんに聞きながらその都度改良してゆく。私たちの取り組みはこれからもずっと続きます。

職員もそれが患者さんに喜ばれるので楽しみになっているようです。今では私以上に各部署のスタッフもよく理解していて、患者さんからの評判もとても良いです。

さらには、スタッフのモチベーションアップにもつながっています。

それまで患者さんの誘導も一対一で案内しなければならなかった手間が少なくなった分、患者さんにも丁寧に対応できるようになりました。

患者さんに喜んでいただけることが何よりのやりがいだと思います。これからの病院は、是非そうなっていって欲しいというのが私の思いです。

当病院に見学に来られる先生たちも多く、逆に私たちも全国の良い病院などを積極的に見学して、参考にさせて頂いております。

眼科治療のネットワーク井上眼科病院同門会

井上眼科病院グループで勤務されて今は開業医として活躍されている眼科医の先生たちの組織が井上眼科病院同門会です。

現在全国で100人ほどおられます。患者さんの紹介や、定期的な勉強会を行ったり、緑内障の患者さんの全国的な診療調査などを行ったりと、眼科治療の症例研究や情報交換の場になっています。また互助的な機能も有しています。

130年余りの歴史の中で作られてきた眼科治療のネットワークです。

目の相談室 ロービジョン外来

目の相談室は先代の父の代から始めたものです。

患者さんの中には残念ながら治らない方もおられます。そのような方たちをフォローするために作ったのが目の相談室です。

治らないからといっても患者さんには生活があり生きていかなければならない。そのために今持っている視機能を最大限に活かしていくための相談を受けることのできるのがロービジョン外来です。

当院には専門医も多くいますので、治療できない方たちのお役にも立ちたいという理念で行っています。これは患者さんも喜んでいただけますし、眼科専門病院の社会貢献の1つとも捉えています。

最近は相談者の数も増えてきていますし、診療現場で吸い上げ切れない患者さんの悩みや不安などがフィードバックされることが、今度は診療に役立っているという事も多くあります。

医療経営者として思うこと

医学部に入った当時は、眼科医以外にも興味を持った時期がありましたが、目が見える、見えないということは、実は人が生活をする上で大きな要素です。

誰でも生きている限り目は見えたほうが絶対に良いわけで、眼科の使命もそこにあると感じました。

また多くの患者さんから感謝されている父親の姿も見ていましたので、それも眼科医を目指した動機でした。

現在、医療経営に携わる立場としてあえて言えば、医療経営において利益を出すという事は、医療を発展させていくために必要と考えています。

患者さんのために最新で最善の医療を行うためには、常に投資をしていかなければなりません。

投資には、設備や機能面などの物的投資もあれば、優秀なドクターやスタッフを集めるための人的投資もあります。医療経営者としては常にその判断を求められ、それは大変な勇気と決断がいる事です。

当病院では、それぞれの分野における専門ブレーンやスタッフが連携して、いわばチームのような形で病院経営に参画しております。

これからの高齢化社会においては、目が悪くなってからの寿命も必然的に延びるわけです。

目の病気では未だに治せないものもあります。自分自身も目が悪くなるかもしれないと考えたときに、ロービジョンの方たちにとって暮らしやすい世の中になっていって欲しいと思いますし、社会全体の取り組みとしてもそれは必要と感じます。

眼科専門医として、そのような活動も行っていきたいと思っています。視覚障害の方が駅のホームから転落したニュース報道などを見ると、尚更そう思います。

視力は人の生活に取って非常に重要な機能

ところで最近は、眼科医になるドクターが少なくなっているという話を聞きます。目の病気で生死に関わる事は少ないかもしれませんが、見える見えないは人の生活に取って非常に重要な機能です。

人が得る情報の80%は視覚情報から入ってくるともいわれています。そのような意味では人が生きる上で、眼科は大事な診療科目と思っています。

ですから多くの医師に眼科を目指して欲しい。眼科医が増えれば、それだけ治療法や研究も進み、ひいてはそれが多くの患者さんの喜びに直結します。私はそう願っています。

医療法人社団済安堂 井上眼科病院グループ
●井上眼科病院/手術、入院、特別外来、専門外来、レーシックセンター
●お茶の水・井上眼科クリニック/一般外来、小児眼科外来、専門外来、コンタクトレンズ外来、屈折矯正外来、眼科ドック
●西葛西・井上眼科病院/手術・入院、一般外来、小児眼科外来、コンタクトレンズ外来、専門外来、病床数32床
●大宮・井上眼科クリニック/日帰手術、一般外来、小児眼科外来、専門外来

【井上眼科病院グループ統計データ】 (平成28年度)
総外来数 429,715人(約1500人/1日)(4施設)
総手術数 10,748件(約35人/1日)(井上眼科病院、西葛西・井上眼科病院、大宮・井上眼科クリニック)

クリニック名医療法人社団済安堂 井上眼科病院
ホームページhttps://www.inouye-eye.or.jp/hospital/
住所〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台4-3
電話番号03-3295-0911
診療内容眼科・麻酔科

この記事の著者/編集者

井上賢治 井上眼科病院 院長 

医療法人社団済安堂 理事長 井上眼科病院 院長 
医学博士 眼科専門医
1993年千葉大学医学部卒業、1998年東京大学医学部大学院卒業、1999〜2000年 東京大学医学部附属病院分院眼科医局長、2002〜2005年医療法人社団済安堂井上眼科病院附属お茶の水・眼科クリニック院長、2006〜2012年医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック院長、2008年医療法人社団済安堂 理事長、2012年医療法人社団済安堂 第11代井上眼科病院院長
日本眼科医会代議員、東京都眼科医会常任理事、日本ロービジョン学会評議員、NPO法人空間のユニバーサルデザイン総合研究所理事、他

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。