井上眼科病院 院長  井上賢治
連載ユニバーサルデザインによる病院づくりで、ホスピタリティの実現を目指す

#02 「患者さま第一主義」を考えた結果として、ユニバーサルデザインにたどり着きました

ユニバーサルデザインとは、障害の有無や年齢、性別、人種などにかかわらず、多くの人々が利用しやすいように製品やサービス、環境をデザインするという考え方である。 132年の歴史を誇る「井上眼科病院」および「お茶の水・井上眼科クリニック」では、眼の見えづらい方、体の不自由な方、お年寄りやお子様など、さまざまな方が安全に安心して通院、入院できるように、誰もが使いやすいユニバーサルデザインを導入して、快適な病院空間づくりに取り組んでいる。 (『ドクタージャーナル Vol.7』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

患者さまが使いやすいクリニックを作りたい

以前の井上眼科病院では、外来も手術も行っていました。1981年にできた病院で、当初は患者さんが1日300人位だったのですが、次第に増えてきて、そちらでは大変手狭になっていました。

そうなってくると待合室には患者さんが溢れて、診察室も新たに2階に作ったりと、病院内の動線が非常に分かり難くなっていて、それはスタッフにとってもストレスの多い状態でした。

眼科病院ですので、患者さんは視力の弱い人が多いのに、待合室や廊下には多くの人が立っていて、院内を歩行するのも危ない。

ましては転んだりしたら大変です。視力の弱い人が安心して来院でき、安全に診療を受ける事ができることが眼科病院のそもそもの大前提ではないか、と考えました。

そこで移転に際して、「そのような方たちに使いやすいクリニックを作りたい」という考えを建築デザイナーに話したところ、「それこそがユニバーサルデザインの考え方です。」と言われたのが、始まりでした。

その時まで、特にユニバーサルデザインを意識していたわけではありませんでした。

ですから、最初にユニバーサルデザインありき、ではなくて、患者さん第一を考えた結果が、ユニバーサルデザインに行き着いたということなのです。

この取り組みは、当病院が掲げる「患者さま第一主義」にも合致して、スタッフからも支持されました。それまでの状況は、スタッフにとってもストレスが多かったので、期せずして全員の思いが賛成の方向に向かいました。

患者さんに聞くのが最も正しい

クリニックに来院される患者さんは目の見えづらい方たちが多い。

使い勝手の良さは、患者さんに聞くのが最も正しいという事になりまして、多くの患者さんに直接調査をさせてもらい、眼科病院に来られる患者さんにとっての使いやすさを調べました。

そうしましたら、いろいろな点で当初私たちが思っていたことと違っていました。

例えば院内の地図表示でも、私たちの考えではいろいろな情報が表示されていた方が分かり易いだろうと考えていたのですが、調査結果では、患者さんが一人で行く場所だけが分かれば良い。そこから先はスタッフが誘導してくれるので院内地図の表示内容は必要最低限でいい、ということでした。

我々にとってそれは新たな発見でした。また、元々視野の狭い人には探しにくいから、ピンポイントの表示だけでよいとの指摘もありました。

調査に関しては、当初はどれだけの方が参加してくれるか不安だったのですが、患者さんにお声を掛けたら皆さん大変喜んで参加して下さいました。

調査も複数回に及び、「そこまで考えてくれているのか。」と、皆さんにとても多くの意見を寄せていただきました。それがとても嬉しかったですね。

逆に言えば、それだけ多くの患者さんが不自由な思いをしていたのだということです。最終形ではありませんが目の見えにくい患者さんにとって普遍的なデザインに近づいたと感じています。

井上眼科病院
井上眼科病院
井上眼科病院

(続く)

この記事の著者/編集者

井上賢治 井上眼科病院 院長 

医療法人社団済安堂 理事長 井上眼科病院 院長  医学博士 眼科専門医 1993年千葉大学医学部卒業、1998年東京大学医学部大学院卒業、1999〜2000年 東京大学医学部附属病院分院眼科医局長、2002〜2005年医療法人社団済安堂井上眼科病院附属お茶の水・眼科クリニック院長、2006〜2012年医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック院長、2008年医療法人社団済安堂 理事長、2012年医療法人社団済安堂 第11代井上眼科病院院長 日本眼科医会代議員、東京都眼科医会常任理事、日本ロービジョン学会評議員、NPO法人空間のユニバーサルデザイン総合研究所理事、他

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