#01 経営的視点を持った医師がアドバーンテージを活かして進める病院改革

2011年7月1日に新病院としてオープンした足利赤十字病院は、足利市を中心に佐野市、群馬県太田市、桐生市、館林市の両毛5市をカバーする地域の中核病院だ。 従来の病院建築の概念を変えた珍しい免震構造による6分棟型構造で、一般病棟の500床は全室個室である。風力発電機や太陽光発電パネルなどを備え、病院として初の国土交通省の省CO2推進モデル病院にも選出されている。 施設の斬新さもさることながら特筆すべきは小松本悟院長が推進する、医師の視点による医師を中心とした全員参画型の病院改革だ。患者満足と職員満足を両立させる病院を創ることを理念に掲げる。 (『ドクタージャーナル Vol. 3』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒) 

免震構造6分棟型、一般病棟500床全室個室

足利赤十字病院は、両毛5市人口80万人医療圏で唯一の救命救急センターを有する第3次医療機関であり、栃木県内には5つある救急救命センターのひとつである。

1949年の創立以来63年間もの間、市立病院的な役割を担いながら、黒字経営を続けてきた。

2011年4月、これからのIT化対応による先進的医療への取り組みを目指し、渡良瀬川河川敷沿い5万7000平方メートルの土地に移転した。

通常、公共性の高い中核病院の建て替えとなると行政による大規模な支援を受ける事も多いが、足利赤十字病院は建設費用の80%を自己資金で調達したことからも、それまでの同病院の経営状態がいかに良好であったかがわかる。

小松本院長は足利赤十字病院の院長に2008年就任。それまで14年間にわたって同病院の副院長を経験している。副院長時代から医師として病院経営を推進する姿勢を表明してきた。

足利赤十字病院副院長としての勤務の傍ら、東京医科歯科大学大学院に通って医療管理学修士(MMA)の資格を取得。診療情報管理士の資格も所持する。

「病院経営は医師がやらないといけないと思っています。また、私自身が使命感を持った院長になるには、経営学の知識をしっかりと身につける必要がありました。」

だからこそ、医師自身の経営視点にもとづく病院経営に並々ならぬ意欲と情熱をもって取り組み、結果も出せているのである。

医師による医療経営が大切なのです。

一般的には、経営は医事部門に任せきりという病院も多い。外部から専任の経営スタッフを招いたりする病院もある。

しかし事業会社的な発想からの医療経営は、ともすると提供する医療を商品として扱う傾向にあったりする。小松本院長はそれを危惧してきた。

「医療の対象はあくまで人間であり、そのまま直接人の生命に関わるものです。医療は単なる商品として割り切る事はできません。提供する医療によって患者さんがどのくらい良くなったかという結果までを常に考えなければならない。」

「医師には医学教育のなかで培われた生命観や倫理観があります。だからこそ医師による医療経営が大切なのであり、それは医師を中心とした経営体制でなければ生まれてこないのです。」

小松本院長が進める病院経営とは、医師自らが経営の知識と視点を持ち、全員参加型で常に意識改革をしながら病院経営に取り組み、収益を上げて磐石で安定した経済基盤をつくることが、将来にわたる安定した地域医療の提供につながるというものだ。

この記事の著者/編集者

小松本悟 日本赤十字社 足利赤十字病院 院長 

日本赤十字社 足利赤十字病院 院長 1969年慶應義塾大学医学部卒業、1979年同大学院医学研究科(内科学専攻)終了、1984年~86年米国ペンシルバニア大学脳血管研究所留学、1988年慶應義塾大学神経内科医長、1994年足利赤十字病院副院長、2005年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修士課程医療管理政策学(MMA)コース修了、2006年慶應義塾大学医学部客員准教授(内科学)、2008年足利赤十字病院院長、2010年~慶應義塾大学医学部客員教授(内科学)

この連載について

医師の視点で医師中心の医療経営戦略を推進し、地域医療に貢献する。

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。