#02 患者さんには『おもねず、あなどらず、おそれず』自然体で向かい合いたい。

近年、睡眠障害の深刻さの度合いはますます増してきている。 従来、睡眠障害はごく一般的な病気であったが、患者数の増加とともに高血圧や脳血管障害をはじめとする,様々な生活習慣病を合併することが知られるようになり,プライマリケアの第一線で対応する内科医、及びかかりつけ医にとっても睡眠医療に対する積極的な対応が求められる時代となってきている。 名嘉村博氏は、日本における睡眠医療を牽引し、特にSAS(睡眠時無呼吸症候群)の治療においては1990年に日本で最初の睡眠呼吸センターを沖縄県浦添市に開設した。 (『ドクタージャーナル Vol.2』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

2000年、50歳で名嘉村クリニックを開業

浦添総合病院において、保険適用の2年前から在宅酸素療法(HOT)を半額病院負担で導入したり、コロラド大学での研修に参加したり、HCU設立後にはチーム医療確立のための呼吸療法士の育成に取り組む。

また、福岡市に独立型の睡眠クリニックは日本で2番目となる福岡浦添クリニック・睡眠呼吸センターを開設するなど、目覚しい活動を展開していた。

そこには浦添総合病院の宮城敏夫理事長をはじめを理事会の理解と支援があった。

その後、浦添総合病院は国の医療政策で病院の機能分化が進められる中、急性期医療を担う地域医療支援病院になるため外来患者を3分の1に減らすことが決定された。

慢性疾患の外来患者を他の医療機関に紹介したのだが、睡眠障害の患者だけは病院が他に無く紹介できない。しかも患者は今後確実に増加している。当然、睡眠呼吸センターは続けられない。

そこで必要に迫られた結果ではあったが、浦添総合病院の睡眠呼吸センターの職員と医療検査機材を全てそのまま引き継いだ形で2000年名嘉村クリニックを新規開業した。名嘉村氏が50歳の時である。

こうして名嘉村クリニックは、呼吸器疾患と睡眠医療、在宅酸素療法や人工呼吸器のケアもできる在宅医療を2本柱にして開業した。

システム構築に大きなウェイトを掛けている

現在は、医師12名(常勤8名、非常勤4名)、看護師18名、臨床検査技師7名(常勤4 名、非常勤3名)、放射線技師1名、管理栄養士1名、理学療法士1名、システムエンジニア2名、社会福祉士2名、社会福祉主事1名、事務部門12名、助手2名、夜間非常勤検査技師・看護師10名スタッフで内科、呼吸器科、睡眠障害、糖尿病治療などを主に、睡眠呼吸センター、糖尿病・甲状腺センター、在宅ケアセンター、沖縄治験センターを有している。

「当クリニックは、チームアプローチのモットーとしてシステムで診療するのが特徴です。システムエンジニアが2名おりサーバ9台、パソコン60台で院内ネットワークシステムを構築しています。ほぼ一人にパソコン1台です。

クリニック全体で60 人程のスタッフの内 40 人が睡眠診療に関わっています。

当クリニックでは検査技師は検査だけではなく、患者さんに検査手順や CPAP の説明、時には苦情処理も行っています。勿論看護師も同様です。

クリニック開設以来の 1 万件に及ぶPSG データは全てデータベース化してありますし、全ての患者さんの統計データも取れるようになっていて、臨床研究に役立つようになっています。

また院内ネットワークを活用して、ドクターのスケジュール管理やクリニックの運営・経営の情報も共有化しています。当然、アクセス権限の制限等、情報管理のセキュリティも万全にしてあります。

現場での利便性や患者さんの説明などのために、ipadも20台すでに導入しています。システム構築に大きなウェイトを掛けている点が特徴ですね。」

名嘉村クリニックの取り組み

名嘉村クリニックでは職種や部門を越えて全員が参加するチーム医療と、全てのスタッフが医療にかかわっていくというスタンスで、スペシャリストとジェネラリスト両方の役割を果たすことを院内スタッフ全員の目標としている。

事務職スタッフはメディカルクラークと事務職を併せた総合事務職として、尚且つ医療専門職化することで、看護師が行っている事務仕事を代行することを目標としている。そのことで、看護師は患者への本来の仕事に専念でき対応できる患者数が増える。

結果的に診療全体の効率が上がり、最終的に患者へのサービス向上につながる。また今まで当たり前と思っていたルーチンを変える取り組みも数多く行っている。

「それまではカルテが手元に届いてから算定していた業務を、診療が終わった時点で電子カルテから算定することで患者さんを待たせないとか、予防接種のような確定している清算は待合時間に済ませてしまえば、患者さんは終わったらすぐ帰れる。というようなことです。

それまで当たり前となっていた非効率を改善するにはそれぞれの業務のシステム化が必要でした。またスタッフの意識改革も重要で、根気良くひとつひとつに取り組んできました。

常々おのおの部門で効率化を考えなさいと言っています。効率化は患者さんのみならず医師も含めたクリニックのスタッフのためにもなります。」と名嘉村氏は語る。

名嘉村クリニックでは、事務スタッフも患者さんに接してゆく。カルテも全員で書く。残業はしない。

「特にどこの医療施設でも当たり前のように思われているレセプト作成時の残業をしないシステム作りに取り組んでいます。

在宅診療では医師に事務スタッフが同行し入力事務や同時に行い診療の効率化を図るように努めています。他所から見ればその分スタッフに余計な負担が掛かっているように見えるが、相互に補い支えあうシステムが実は高い効率性と生産性を生んでいくと考えています。」

一方では大手病院並みのレセプトチェッカーも入れている。看護師、職員の年休も殆どを消化させる。職員の子供の急病時の託児施設の費用もクリニックで負担するなど、良好な職場環境作りにも気を配っている。

「私は患者様とは言いません。患者さんです。必要なことはお互いが言い合える信頼関係がなければ良い医療は出来ないと思っていますから、患者さんとの距離を作らないように心掛けています。

患者さんはある意味では人生の師でもあり、『おもねず、あなどらず、おそれず』で自然体でいたいというところでしょうか。」

この記事の著者/編集者

名嘉村博 医療法人HSR 名嘉村クリニック 院長 

【専門領域】呼吸管理・人工呼吸療法・在宅酸素療法・睡眠医学。
1974年九州大学医学部卒業、1976年九州大学第一内科(循環器)、1984年浦添総合病院呼吸器科、1989年アメリカコロラド大学呼吸器科にて睡眠時無呼吸検査施設研修、1990年日本で最初の睡眠呼吸センターを沖縄県浦添総合病院に開設する。

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