#02 医療の付加価値額を少しでも増やすように全員で努めなければならない。

2011年7月1日に新病院としてオープンした足利赤十字病院は、足利市を中心に佐野市、群馬県太田市、桐生市、館林市の両毛5市をカバーする地域の中核病院だ。 従来の病院建築の概念を変えた珍しい免震構造による6分棟型構造で、一般病棟の500床は全室個室である。風力発電機や太陽光発電パネルなどを備え、病院として初の国土交通省の省CO2推進モデル病院にも選出されている。 施設の斬新さもさることながら特筆すべきは小松本悟院長が推進する、医師の視点による医師を中心とした全員参画型の病院改革だ。患者満足と職員満足を両立させる病院を創ることを理念に掲げる。 (『ドクタージャーナル Vol. 3』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒) 

付加価値額の向上を図ってCJ経営に取組む

足利赤十字病院は「患者のみなさんがかかってよかった、職員の一人ひとりが勤めてよかったといえる病院を創ります。」を理念として掲げる。病院理念に職員満足が盛り込まれている例は全国的にも珍しく、この理念は斬新である。

患者第一で、患者がかかってよかったと思えるようにするのは当然である。しかし、

「患者さんの要求は日ごとに高くなる。顧客満足のCS経営は当然であり、さらにこれからはCJ経営でなければならない。Joy(喜び)を提供していくにはどうするかを考えることが必要になっていいます。CJ経営とは患者さんの感激を意味します。病気をただ治すだけでなく、患者さんに心から喜んでもらえる医療でなければならない。」

例えば、同病院では土、日でも退院や検査を実施することで患者さんに喜ばれている。

「稼動額から、薬品、経費、減価償却の3つを差し引いた残りが付加価値額です。それを再配分したものが職員の給与となる。まず給与ありきではなく、いい医療を提供して患者さんが満足した結果として、給与が支払えるわけです。そういう意識を職員にもたせることが大事なのです。」

と、小松本院長は強調する。

職員のモチベーション向上と意識改革

足利市では、1000人規模の従業員を抱える企業が無い中、950人もの職員を抱える足利赤十字病院は優良企業でもある。だから職員にはこの病院で働く事の誇りと意欲を持って欲しいというのが小松本院長の願いだ。

新病院の竣工式では、一般とは別に職員とその家族のための竣工式を盛大に行い家族にも新病院を内覧してもらった。

また夏の花火大会には、職員家族のために桟敷席を100坪確保し、赤十字マークの花火等を打ち上げた。それら全てに経費が発生する。

しかしそれは職員が満足して意欲的に働いてもらえるための投資となる。職員の平和な家庭は、病院経営の基盤である。職員の生活満足度や仕事満足度の向上のためであれば必要と小松本院長は考える。

「DPC(診断群分類包括評価)になって、出来高制のコストというとらえ方から、価格という考え方に180度変わりました。価格のついた商品としての医療を提供するわけです。

当然、評価と成果が厳しく求められる。その実現のためには職員一人ひとりの意識改革と地道な努力が欠かせない。その前提となるのが職員のモチベーションであり、それは仕事や職場に対する満足感とロイヤリティによってもたらされるのです。

そのためには、職員1人ひとりが医療の付加価値額を増やせるようなモーメントを各職場でブレークダウンして考えることが必要です。付加価値額を少しでも増やすように全員で努めなければならない。」と小松本院長は語る。

この記事の著者/編集者

小松本悟 日本赤十字社 足利赤十字病院 院長 

日本赤十字社 足利赤十字病院 院長 1969年慶應義塾大学医学部卒業、1979年同大学院医学研究科(内科学専攻)終了、1984年~86年米国ペンシルバニア大学脳血管研究所留学、1988年慶應義塾大学神経内科医長、1994年足利赤十字病院副院長、2005年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修士課程医療管理政策学(MMA)コース修了、2006年慶應義塾大学医学部客員准教授(内科学)、2008年足利赤十字病院院長、2010年~慶應義塾大学医学部客員教授(内科学)

この連載について

医師の視点で医師中心の医療経営戦略を推進し、地域医療に貢献する。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。