レビー小体型認知症の最大の問題は、
医師による誤診が多いということです。

横浜市立大学名誉教授 小阪 憲司

#02 「レビー小体型認知症」を世界が認めるまでに、最初に報告してから20年かかりました。

レビー小体型認知症(ⅮⅬB)は、認知症全体のおよそ2割を占めるとみられている。

「認知症専門医であっても、ⅮⅬBを他の疾患と誤診していることが非常に多い。最も問題なのは、誤診により、多くのⅮⅬBの患者さんの適切な治療が手遅れとなっていることです。ⅮⅬBは早期発見・早期治療で、認知症の発症や進行を遅らせることができる病気なのです。」と、正しい早期診断の意義を、世界で最初にレビー小体型認知症を発見した小阪憲司氏は語る。

(『ドクタージャーナル Vol.15』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)
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世界に認められるまでは、苦闘の連続でした。

1978年には、3例の剖検による大脳皮質に存在するレビー小体の研究を報告しました。その後、アルツハイマー病の発見者であるアロイス・アルツハイマーやレビー小体の発見者であるフレデリック・レビーがいたことのあるミュンヘン大学精神医学研究所を前身とするマックス・プランク精神医学研究所に客員研究員として留学しました。 

その研究所において、ドイツ人のパーキンソン病の症例でも大脳皮質にレビー小体が多数認められる2症例を見つけて報告しました。これがヨーロッパで初めての「レビー小体型認知症」の報告となりました。

1980年のレビー小体病の提唱は、全く認められませんでした。

さらに1980年にはレビー小体病(LBD:Lewy Body Disease )という概念を提唱しました。これは、前述の大脳皮質にも多数のレビー小体を伴う認知症や、パーキンソン病の上位概念にレビー小体病があるという考え方です。 

つまりパーキンソン病はレビー小体病の一つに含まれるという考え方ですが、パーキンソン病という、既に有名な病気の概念を覆す報告であったため、この時には「レビー小体病」という概念は日本でも世界でも全く認められませんでした。それこそ、日本人の若い医師が何を言うかという感じでした(笑)。

表1/レビー小体病(Lewy Body Disease)とは

 1984年には、びまん性レビー小体病(DLBD:Diffuse Lewy BodyDisease )という概念を提唱し、この病気は欧米で見逃されているのではないかという報告を出したところ、欧米でも非常に関心を持たれて調べられるようになりました。 

特にイギリスでは注目され、幻視や妄想があることなどが判ってきました。1990年には、日本におけるびまん性レビー小体病という論文も報告しました。

表2/びまん性レビー小体病とは

最初の報告から20年目で世界が認める。

1995年には、イギリスに世界中から50人余りの専門家が集まり国際会議が開催され、そこで正式に「レビー小体型認知症」(DLB: Dementia with Lewy Body)という名前が決定し、それが1996年にNeurologyという有名な科学雑誌に発表され、レビー小体型認知症の国際診断基準も発表されました。

最初の報告をした1976年から、実に20年目のことです。

さらに2005年に、第3回DLB/PDDワーキンググループが開催され、ここでようやく、パーキンソン病、認知症を伴うパーキンソン病、レビー小体型認知症をまとめて、レビー小体病(LBD:Lewy Body Disease )という用語を使用することとなりました。1980年に私が主張したレビー小体病がやっと認められたのです。

レビー小体病が世界中で認められるまでにずいぶんな年月を要しました。その間、私の報告や論文が認められなかったことが何度もあり、悔しい思いもしました。
日本人の研究が世界で認められることの難しさを本当に痛感しました。

自分の患者さんの病気に疑問を持ったことがすべての始まりでした。

この発見の原点は、自分が診ていた患者さんの病気に疑問を持った、ということに尽きると言えます。

 例えば、「アルツハイマー病」の最初の症例報告を行ったドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーも、自分が診ていた患者さんの病状に疑問を感じ、病理解剖で脳を見た結果、新しい病気として発見するわけです。

1906年のことです。その後1910年に、彼の師匠のドイツ精神医学の大家エミール・クレペリンにより「アルツハイマー病」として広く知られることとなりました。患者さんの病気への疑問が大きな発見につながったという点では同じです。

表3/小阪医師によるレビー小体型認知症発見の歴史

レビー小体型認知症の特徴

認知症という名称が付いているから、いわゆる認知症が出ていないと診断ができないというのは大きな間違いです。 

アルツハイマー型認知症では物忘れから始まりますが、レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症と異なり、早期には認知機能障害、特に記憶障害は目立たないことが多い。認知症の症状は後から出てくることが多いのです。代わりに、幻視など様々なBPSDやパーキンソン症状、自律神経障害などが早期から見られることが多いのが特徴です。 

また、抗精神病薬などに薬剤過敏性を示すことも特徴のひとつです。 

さらには、レビー小体型認知症の患者さんの主訴は精神・神経症状に限りません。起立性低血圧、食後低血圧、頑固な便秘、頻尿、発汗などの自律神経障害が早期から出現しやすいことも特徴です。 
ですから、レビー小体病は全身病とも言えます。

表4/レビー小体型認知症の主な特徴
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(続く)

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小坂憲司
小阪 憲司 (こさか けんじ) 氏

1939年三重県伊勢市生まれ。1965年金沢大学医学部卒業。1976年大脳皮質にも多数のレビー小体が出現する認知症を報告。1980年「レビー小体病」を提唱。1984年びまん性レビー小体病を提唱。1991年横浜市立大学医学部精神医学教室教授就任。1995年第一回国際ワークショップ(イギリス)で、これまでの研究成果がレビー小体型認知症(DLB)として命名される。2003年横浜市立大学医学部精神医学教室名誉教授。『レビー小体型認知症の診断と治療』、『レビー小体型認知症がよくわかる本』など著書多数。