子供や従業員へ継いでもらう方法(理事長と後継者の悩み編)

<本連載について>
事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのか分からなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

〈今回の記事について〉
事業承継をさあ始めようと思い立った時、まず初めに頭に思い浮かぶのは子供や従業員として働いている医師への承継ではないでしょうか。

病院や診療所を家族が継いでくれる・信頼する医師が継いでくれるということは、経営者の家族・職員・患者の誰もが一番納得のいく承継方法だと思います。

本稿ではこれから数回にわたり、子供や従業員に安心して事業を継いでもらうために準備すべきことについてお伝えしていきます。

【今日からはじめる事業承継2日目】
子供や従業員への承継について考えてみる

事業承継2日目は子供や従業員への承継について考えてみましょう。

病院や診療所を家族が継いでくれる・信頼する医師が継いでくれるということは、誰もが一番納得のいく承継方法です。ただ、これまでたくさんの理事長・院長とお会いしてきたなかで、簡単ではない・悩んでいるという声も多かったのは事実です。

「親心」が事業承継をつい先送りにしてしまう

事業継承にお悩みの『理事長』

その中で最も多かった悩みは、「自分の子供が継ぐ気があるのかわからない」あるいは「事業承継の話を切り出しにくい」というものです。理由を尋ねると、「親心」という言葉がすっぽりと当てはまる気がします。

「息子が医師として成長している最中に承継の話で水を差したくなかった、まずはドクターとして一人前になってほしいと思っていた」という気持ちや「息子に長男が生まれ、仕事に育児に忙しいタイミングで承継の話を切り出しにくかった」という理事長もいました。

医学部に入ったばかりの息子や甥に過度な期待をしていいのか戸惑ったり、若いうちから精神的、肉体的にも負担も多い経営者の仕事をお願いすることに躊躇する方も多いです。また、家族や親族だけでなく副院長や常勤医に次世代の経営者を任せたいと思う反面、断られたら今の関係性も壊れかねないと思うと進んで声掛けはできなかったといいます。

様々な理由はあろうかと思いますが、親として子供のことを想う「親心」が事業承継をつい先送りにしてしまったり、副院長や常勤医にこれまで通り働いてほしいという気持ちが声掛けを躊躇してしまうことが多いのが現状です。

【今日の知識】
後継者は、経営者が自分に務まるかを一番心配している

では逆に「継ぐ側」とも言うべきご子息たちはどんな事を考えているのでしょうか?後継者目線の視点に立って考えてみましょう。継ぐ側の多くは「親族承継であれば子供」「院内承継であれば副院長や常勤医」になります。

①自分に「経営者」が務まるのか?

これまで相談を受けたなかで最も多いのは、「自分に経営者が務まるのか?」という心配でした。
病院を作り地域住民の健康はもちろん、病院で働く従業員やその家族の生活まで守ってきた父親の背中を見て、果たしてそれらを自分が継続できるのか、守り切れるのかは不安に思う方も多いと思います。

②家族に「反対」されないか?

次に多いのはやはり「家族のこと」でしょう。家族というのは両親ではなく、ご子息の奥様やお子様です。
当然ながら、経営者になるというのは雇われる側から雇う側になるわけですから、奥様やお子様にも精神的な負担をかけてしまう可能性も当然にあるわけで、そのご家族から気持ちよく応援をしてもらえるか否かも非常に重要です。

③病院の「経営状況」は問題ないか?

更には「病院の経営状況」も大事な要因の1つです。
医師としては一流の腕も持っていても、経営者としての腕は別物です。野球やサッカーといったスポーツでも名選手が名監督に必ずしもなれるわけでは無いように医師と経営者にも同じことが言えます。

多くの医師はこれまで経営やマネジメントを勉強する機会がありませんから、「損益計算書」や「貸借対照表」なども見たこともない方がほとんどでしょう。そのため、収益・利益と言われたところでピンとこない可能性が高く、財務の読み方から病院の収益構造まで理解ができるよう伝え方には工夫をこらす必要があります。

④どの程度「お金の負担」がかかるのか?

最後に「経済的な負担」要はお金の話が気になる方も多いと思います。
例えば、病院・診療所の運営で最も大きな資金調達は建て替えであり、

  • どの程度の資金が必要なのか
  • 移設するための用地は確保できるのか
  • 事業戦略に合わせて病床機能をどう変えるか
  • 安定的に利益を確保し借入金を返済できるか
  • はたまた銀行はお金を貸してくれるだろうか?
  • その場合の連帯保証人はどうなるのだろうか?

などなど全部セットで考えなければなりません。現状だけでなく将来に目を向けたお金の話を明確にすることが大切です。

このように継ぐ側にも気になることや心配なことが多く、二つ返事で承継を了解する、というのはほとんど無理に近いと言えるでしょう。

ありがちな事業承継の失敗ケース

多くの事業承継を応援してきたなかで「これだけはやってはいけない」と改めて認識していることがあります。

①ある日「突然」継ぐか聞いてしまう

その最たる例が1つ目の「ある日突然、病院・診療所を継ぐかどうか聞いてしまう」ことです。

心の準備がお互いにできていない状態でいきなり「継ぐのか?それとも継がないか?」の二択だけで迫ってしまうとご子息も正確な判断ができません。「話を有耶無耶にしたり」「後でゆっくり考えたい」と決断を先延ばしにしてしまう傾向が多いのです。

このように判断・決断ができないまま、10年・15年もずるずると承継の話がまとまらないケースを私たちはよく目にします。ですから、絶対に突然はやめましょう!ちゃんと準備を行い、場所を設け、落ち着いた状態で話をするというのが大事だと思います。

②後継者の「家族の意見」を聞いていない

2つ目は「後継者の家族の意見を聞いていない」これも良くありません。ご子息の奥様やお子様の支援や応援も大切だからです。

親子でうまく進んでいた事業承継の話が、ご子息の奥様の絶対的な反対により破談になってしまったというケース、冗談じゃなく本当にあった話です。

経営者になるというのは大変なことばかりです。勤務医の方が楽なことも沢山あります。ですので、ご子息を奥様がサポートをしてくれるかどうか、そういう覚悟をもって望めるのかどうかということもふまえて、後継者のご家族にはしっかりとお話を聞いてみましょう。

③病院の「問題点や課題」を知らせない

3つ目は「病院の問題点や課題を知らせない」、悪く言えば隠した状態でご息子に継がせてしまったケースもありました。

赤字なんて聞いてない・職員の離職が止まらない・患者の減少が何年も続いているなんてことになるとせっかく事業承継してもらったはずが親子関係にひびが入ったり、これまでの関係が壊れかねません。現状の問題点や課題もしっかりと整理をして伝えることが重要です。

④話し合いがいつのまにか「言い合い」に

こうした事業承継の話を親子ですると「話し合いがいつの間にか言い争い」になってしまうこともあります。お互いが感情論だけでぶつからず、それぞれに落としどころを見つけるためのディスカッションをするということを忘れないでいただきたいと思います。

まとめ

今日からはじめる事業承継2日目は、理事長が悩んでいること後継者が心配していることを中心に整理をしてきました。親として子供のことを想う「親心」が事業承継をつい先送りにしてしまったり、父親が築いてきたものを「自分が経営者として守っていけるのか」とご子息が心配する気持ちもよくわかります。

では、どのような方法であれば、お互いの悩みや心配を解きほぐすことができるのでしょうか。その方法について、次回以降は解説していきたいと思います。

株式会社fundbookの基本情報

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事業内容M&A仲介事業

fundbookは最先端のテクノロジーとアドバイザーの豊富な経験を融合した新しい形のM&Aを提供する会社です。2021年に創設された「ヘルスケアビジネス本部」には、病院・診療所の事業承継・M&Aを200件以上成約に導いてきたメンバーが揃い、業界最大級の経験と実績に基に安心と成果を提供します。M&Aに関するコラムやM&A事例なども多数紹介しています。

この記事の著者/編集者

西山賢太 株式会社fundbook アソシエイトヴァイスプレジデント 

株式会社fundbookヘルスケアビジネス戦略部所属。薬剤師・調理師・医療経営士。埼玉県済生会川口総合病院にて薬剤師としての実務経験を得た後、新たな視点で医療業界に貢献したいという思いから株式会社fundbookへ入社。病院・診療所における事業承継やM&Aのほか、事業計画策定・病床機能転換など経営支援にも携わる。

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医療を未来へつなぐために「今日からはじめる事業承継」

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事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのか分からなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。