かかりつけ医にとっての外来診療の意義

前回記事地域包括ケアの中核となるかかりつけ医の役割とはで語られた役割を果たすために、かかりつけ医が外来診療を行う意義について、西嶋医師・英医師の経験をもとに語っていただきました。

外来診療の重要性

英:西嶋先生は長年にわたり在宅医療だけでなく外来診療も続けられていますが、かかりつけ医にとっての外来診療の意義とはなんでしょうか。

西嶋:長いこと外来に通ってくださっている方を、最期まで診ることが私の務めだと思っていますから、外来診療と在宅医療は、地域のかかりつけ医にとってはどちらも重要な柱だと考えています。

英:私の場合プロセスが逆で、それまでの在宅医療の延長線と捉えて4年前から外来診療を行うようになりました。

新宿区で開業した当初は、既に地域で開業していらっしゃる先生たちがたくさんおられました。しかし、24時間365日のケアが必要な重症度の在宅医療については苦手としている先生たちが多かったので、最初の頃はそこに特化した在宅医療を行っていました。こういう在宅医療が広がれば、いずれは全員が地域で最期まで人生を全う出来る世の中になるのではないかと思っていたのですが、残念ながらそうはなりませんでした。

何故かというと、ある一定の人たちにはソリューションとして高度な在宅医療や24時間365日の医療は必要なのですが、大多数の人はそこまでの患者さんではありませんでした。そのことで自分たちの在宅医療に限界を感じていました。

そうした中、2014年の診療報酬改定で、施設の診療報酬がそれまでから大きく下がりました。 それと同時に初めて地域包括診療医療という在宅療養支援診療所の外来機能に診療報酬が付きました。これから在宅医療も専門特化するのではなくて、むしろもっとジェネラルで地域の医療を支える中に在宅医療というものを位置づけようという流れです。それが私にとって大きなエポックメイキング(画期的)となりました。

地域包括ケアで、地域で安心して過ごせる。そういう時代の流れの中で我々も地域に適合しなければいけない。私は在宅医療から入りましたが、かかりつけ医として外来診療の大切さを実感しています。実際に外来診療にも取り組むことで、在宅医療で蓄積してきたことがとても活きていると感じます。

外来診療を行う中で分かったことがあります。一つは西嶋先生がおっしゃるように、患者さんの人生の伴走者として、予防からターミナルまで一貫して対応する事の大切さです。もう一つは、在宅で診ている患者さんの家族が外来に来た時には、訪問診療の場では出てこない本音の話が出てくるということです。

エンドオブライフケアやグリーフケアも、かかりつけ医療においては、それらは患者さんとの普通のお付き合いの中にすべて含まれてくるのですね。

外来診療をグループ診療化することの難しさ

英:外来診療を行う中で、その意義とか手応えを強く感じていますが、かかりつけ医の外来診療をグループ診療化することがとても難しい。

在宅でしたら、やることが決まっていますから比較的グループ診療化しやすいし、専門外来もグループ診療化はしやすいと思います。しかし、かかりつけ医の外来診療は何でもありで、さらにはコミットメント性も継続性も大事です。ですからグループ診療化するのがとても難しいと感じています。さらには、そこにインセンティブを持てない若い医師達も多い。

実はここが大きな問題で、かかりつけ医療を、継続的な地域医療の核に据えていかなければいけないという事には全く同感しますが、では具体的にどうしたら良いのかということが悩みです。

若い在宅医が外来診療をしたがらない理由

西嶋私が問題だと感じているのは、在宅診療をしている若い先生たちの中には外来診療をしたがらない人が多いということです。

そうですね。在宅診療の先生たちの中にも、外来診療に消極的な医師がいらっしゃることも確かです。

西嶋:何故かと言えば時間を縛られるからです。外来では最後の患者さんを送り出すまで診察は終わらない。在宅訪問診療は自分でスケジュールを立てられますが、外来にはその自由さがないことを嫌がるのです。

しかし、既に診断や病名が付いている患者さんばかりを診ていると、自分で患者さんを診断する能力が弱くなってしまう。 例えば初診の患者さんのちょっとした訴えや、あるいはずっと診てきた患者さんのちょっとした変調に対する気付きが出来なかったりする。 それは大きな問題だと思います。

外来診療では医師としての総合力が試される

英:私が外来診療を始めた時には、それまでの在宅診療との大きなギャップを感じました。在宅では、病気を診るというよりは患者さんの障害や生活を見るところに視点が置かれます。しかし外来診療では、病気を診る、診断したり、予防をするという最も基本的な視点が非常に重要になってきます。

西嶋:私は今までに、患者さんのちょっとした訴えや一言から、ともすれば見落とされがちな病気を見つけたことも数多くあります。

外来に来られた高齢のご婦人が、「二日前に血尿が出て驚いたけど、その後は普通に戻って今は大丈夫です。」と話された時に、もしかしたらとグラビッツ腫瘍を疑い、腹部CTを撮ったところ、腎臓ガンが発見できたということがありました。

「何かお変わりはありませんか?」と言う言葉から始まるのはそういうことなのです。 私は常日頃、患者さんに「どんなことでも気になったことがあったら全部私に伝えてください」と言っています。ちょっとした一言に気づくことで、いち早く病気を見つけることもできるからです。

英:外来診療では、医者としての総合力が試されるのですね。まさにジェネラリストですね。そのような医師を育てるというのはとても難しい。それでも私たちは、それを考えていかなければいけないと感じています。

続く

西嶋公子(にしじま きみこ)
医療法人公朋会 理事長
医療法人社団公朋会理事長、西嶋医院院長。社会福祉法人創和会理事長。NPO在宅ケアを支える診療所市民ネットワーク理事、社会福祉法人創和会理事長、町田介護支援ネットワーク協同組合代表理事、平成27年 第3回「日本医師会 赤ひげ大賞」受賞。昭和45年 東京医科歯科大医学部卒、昭和47年 国立小児病院、国立療養所神奈川病院勤務。昭和54年 西嶋医院開設、平成元年 ボランティアグループ「暖家の会」設立、平成5年 センター建設促進住民の会 事務局長、平成8年 「ケアセンター成瀬」施設長、平成9年 西嶋医院を医療法人社団公朋会に改組。
英裕雄(はなぶさ ひろお)
新宿ヒロクリニック 院長
医療法人三育会理事長、新宿ヒロクリニック院長。1986年慶応義塾大学商学部を卒業後、93年に千葉大学医学部を卒業する。96年に曙橋内科クリニックを開業し、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業する。2015年に現在の新宿区大久保に新宿ヒロクリニックを移転、開業し、現在に至る。

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部   

ドクタージャーナル編集部によるインタビュー記事や座談会などの記事をお届けします。

するとコメントすることができます。

新着コメント

  • 森口敦

    ドクタージャーナル東大生チーム・コーチ兼メンター 2023年09月13日

    「日本医師会赤ひげ大賞」の受賞歴もある西嶋公子先生。
    誠実に患者様と向き合う姿勢と、「かかりつけ医」養成に対する熱意に、お会いするたびに感動し、元気を頂きます。
    毎回、お会いするのが楽しみです!!

    「かかりつけ医」養成の仕組み作り、ご一緒にできることを嬉しく思います。

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。