#01 大都市圏での神経内科の在宅医療環境の充実が大きな課題だと思っていました。

神経内科医でリハビリテーション医でもある石垣泰則氏は、在宅医療の第一人者である佐藤智氏の「病気は家で治す」の教えに強い感銘を受け、20年以上に及び神経内科専門の在宅医療に取り組んでいる。 その経験の中で、家や家族、そして地域そのものに治癒力が宿っていることを実感すると語る。 「リハビリテーションの真髄は在宅に在り」と信じ、日常診療に取り組んでいる石垣泰則氏は、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会の副会長として、在宅医療体制の充実を目指す活動にも日々尽力している。 (『ドクタージャーナル Vol.25』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

― 神経内科・脳神経外科疾病を専門とする在宅医療クリニックは珍しいと思います。石垣院長はどのような経緯でこの道に進まれ、今に至っておられるのでしょうか。―

恩師、楢林博太郎教授との出会い

高校生の頃に、大脳生理学者の時実利彦先生が書かれた脳についての著書を読んで、学問としての脳神経系の機能や生理学に興味を持ったことが、医学部を目指した動機といえます。

ですから順天堂大学に入学した当初から、医学という学問を学びたいという思いが強かったので、卒業後は神経系の医局に入局して、脳神経内科か脳神経外科もしくは精神科の研究分野に進むつもりでいました。

さらにその当時、世界に先駆けて定位脳手術を行っていた順天堂大学脳神経内科教授、楢林博太郎先生の神経学クリニック(現:楢林神経内科クリニック)を見学させて頂いたことが、脳神経分野の研究の道に進む契機となりました。

1990年に城西神経内科クリニックを開業

卒業後は、大学病院の脳神経内科で仕事を続けていましたが、恩師の楢林博太郎先生が退官されたことなどがあって、このまま研究を続けるよりは、地域医療の中で自分が学んできた神経内科の知識やスキルがどう活用できるのか、現場で学びながら診療に取り組んでみようと思い開業を決意しました。

そんな中、高校、大学の先輩であった小嶋康則先生が院長を務める静岡リハビリテーション病院の非常勤医師をさせて頂いていたご縁もあって、1990年5月に、故郷の静岡県静岡市に、神経内科と理学診療科(今のリハビリテーション科)という専門性の高い診療科目で、19病床の城西神経内科クリニックを開業しました。

周囲には神経内科と理学診療科の2科目で開業している診療所などはありませんでした。

患者さんの多くは、静岡リハビリテーション病院から退院して家に帰ってきた患者さんでしたが、その中には重い後遺症を抱えてどうしたら良いかわからず、家で寝たきりで療養している方が結構おられました。

まだ介護保険サービスもない時代でしたが、そういう方たちの医療的サポートや、介護的サポートを行っていました。それは当時のニーズに合っていたと思います。

医療法人社団 泰平会 城西神経内科クリニック
http://www.johsai-clinic.jp/
〒420-0061 静岡県静岡市葵区新富町5丁目7-6  TEL:054-273-7000
■一般外来/内科、神経内科、脳神経外科
■専門外来/神経内科、脳神経外科、パーキンソン病外来、脳卒中外来、頭痛外来、リウマチ・膠原病外来、リハビリテーション科
■リハビリテーション、在宅医療

2009年にコーラルクリニックを開業

静岡で開業していた当初より、順天堂大学病院の脳神経内科での診察も担当していて、大都市圏での神経内科の在宅医療環境の充実が大きな課題だと思っていました。

そこで2009年5月、東京文京区に神経内科専門の訪問診療専門クリニック「コーラルクリニック」を開業しました。

現在は、私と稲次先生、佐々木先生の3人の常勤医師に、中村先生、王子先生、平澤先生の非常勤医師の6名の専門医と、3名の常勤看護師で神経内科専門の在宅医療を行っています(2017年11月現在)。

当院の看護師は、ドクターとチームを組んで、医師と一緒に患者さんを訪問して在宅医療を行います。

訪問看護師とは役割が違いますので、看護師の募集でもその旨を明確にして、訪問看護をしたい人ではなく、在宅医療を行いたい人を採用しています。

病状の軽い在宅医療の患者さんへの訪問にも看護師が同行するのは、けっして効率が良いとは言えませんが、それでも医師と看護師が一緒に在宅医療を行うということに深い意味があるのだと考えています。そのほかにスタッフと送迎ドライバーがいます。

訪問リハビリテーションについては、それぞれの地域にある訪問看護ステーションの理学療法士や作業療法士などの専門スタッフと連携して行っています。

週2日が静岡の城西神経内科クリニックでの外来、金曜日の午後が30年ほど続けている順天堂病院での外来、それ以外の日はコーラルクリニックで訪問診療を行っています(2017年11月現在)。

診療範囲は、都内の道路事情や緊急時の対応を考えて半径10㎞以内としていますが、なるべく5、6㎞の範囲の中にお住いで緊急時にも駆けつけることのできる患者さんを紹介して頂くようにしています。

この記事の著者/編集者

石垣泰則 コーラルクリニック 院長 

一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長、一般社団法人日本在宅医学会理事、
医学博士、日本内科学会認定内科医、日本神経学会神経内科専門医、日本在宅学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本医師会認定産業医、介護支援専門員
1982年順天堂大学医学部卒業、順天堂大学医学部脳神経内科入局、1990年城西神経内科クリニック開業、1996年医療法人社団泰平会設立 理事長、2009年コーラルクリニック開院

この連載について

「その人の尊厳を尊重しながら、病気は家で治す。最期まで寄り添う。」

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。