【実例付き】かかりつけが増える患者さんとのコミュニケーション

かかりつけ医になるには、数あるクリニックの中から患者さんに選んでいただく必要があります。そのために必要なものとは何でしょうか?

医師としての実績、自宅や職場からの近さ、取り扱っている医薬品……これらも確かに重要ですが、最初に来院するきっかけにはなり得ても、かかりつけとして選ばれる理由にはなりません。実際に患者さんが重視しているのは、その医師やクリニックを信頼できるかどうかです。今回は、信頼関係を築くために欠かせないコミュニケーションについて掘り下げていきます。

患者さんが求めていることとは

結論から言うと、患者さんが求めていることはずばり「安心感」です。

基本的にクリニックへ来るときは身体のどこかしらに不調があるため、多くの患者さんは不安を抱えて来院します。どのような病気にかかっているのか、どう治せばいいのか、自分一人では解決しない悩みを抱えているのです。

不安な状態だからこそ、神経質になってしまう方もいるでしょう。特に医師の言葉や態度にはとても敏感になりやすいので、日常生活で他者と関わる際とは異なった気配りが必要です。来院された全ての患者さんに、安心していただけるコミュニケーションを目指しましょう。

以下に示すグラフは「NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社と京都大学大学院 吉田研究室」のまとめたデータです。これらのグラフからはどのようなことが読み取れるでしょうか。

◆医師/患者が十分な会話が出来ていると考えている割合

「十分な会話が出来ている」(医師)

引用:NTTコム リサーチ「医師と患者のコミュニケーションに関する調査」

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「十分な会話が出来ている」(患者)

引用:NTTコム リサーチ「医師と患者のコミュニケーションに関する調査」

半数以上の医師が十分な会話が出来ていると感じているのに対し、30%程度の患者さんしか十分な会話が出来ていると感じていません。

あなたは、患者さんに十分だと感じてもらえる会話が出来ているでしょうか?

◆医師が質問しやすい雰囲気を心がけている/心がけられていると感じている割合

「患者が質問しやすい雰囲気を心がけている」(医師)

引用:NTTコム リサーチ「医師と患者のコミュニケーションに関する調査」

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「医師は質問しやすい雰囲気を心がけている」(患者)

引用:NTTコム リサーチ「医師と患者のコミュニケーションに関する調査」

65%ほどの医師が話しやすい雰囲気を心がけていると回答しているのに対し、31%程度の患者さんしか医師が話しやすい雰囲気を心がけていると感じていません。

医師の気配りが患者さんにとっては十分でない可能性があります。

◆医師/患者と信頼関係が築けていると考えている割合

「患者とは信頼関係が築けている」(医師)


引用:NTTコム リサーチ「医師と患者のコミュニケーションに関する調査」

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「医師とは信頼関係が築けている」(患者)


引用:NTTコム リサーチ「医師と患者のコミュニケーションに関する調査」

信頼関係を築けているかは最も大事な要素の一つでしょう。医師の評価にも直結します。それにもかかわらず、患者さんが信頼関係を築けていると感じている割合は、医師に比べて低いことが読み取れます。

このように、医師と患者さんとの間には認識の差があるのです。普段のコミュニケーションが患者さんを安心させるに足るものなのか、この記事を通して今一度考えてみましょう。

参考:NTTコム リサーチ「医師と患者のコミュニケーションに関する調査」

コミュニケーションで大事な5つの注意事項

患者さんを安心させるコミュニケーションを取るために押さえておきたい基本的な注意事項は以下の5つです。

  1. 適度な相槌を打つ
  2. スタッフとの会話にメリハリをつける
  3. 声のトーンを患者さんに合わせる
  4. 結論から述べる
  5. 顔を見て話す

1.適度な相槌を打つ

これは他の場面でも言えますが、話しているときは相手が自分の話をきちんと聞いているのか気になるものです。しかもクリニックにおいては正しい診断をしてもらわなければいけないので、自分の話を真剣に聞いてもらわなくては困ります。

あなたの聞く態度はどうでしょうか?

自分ではきちんと聞いていると思っていても、患者さんには話を流し聞きしているように捉えられてしまうこともあります。患者さんの話に興味を示していることをきちんと表すために適度な相槌を打つようにしましょう。それだけでも患者さんを安心させることができます。

2.スタッフとの会話にメリハリをつける

患者さんは医師とスタッフの会話も意外と聞いているものです。不適切な会話は、クリニックの印象を著しく下げるでしょう。患者さんとの会話だけでなく、スタッフとの会話にも気を配らなくてはいけません。

患者さんに良い印象を与えるためには、場の雰囲気を明るくする必要があります。そのためには、スタッフとの会話も良好なものにすると良いでしょう。命令口調は避け、一人のスタッフとして尊重していることが伝わる口調で接すると良いですね。もちろん、口調だけでなく表情も大切になります。ロボットのような無表情で会話するのではなく、感情が伝わるように笑顔などを見せながら会話するのがおすすめです。

しかし親しみのこもりすぎた口調も好ましくありません。仕事上の会話にはメリハリをつけることも忘れないようにしましょう。

3.声のトーンを患者さんに合わせる

内容をはっきりと伝え、相手の記憶に印象づけるためには、高めの声を出すと良いといわれています。だからといって、誰にでもどの場面でも高い声で話すのが良いかというと、そうではありません。

たとえば、高齢者にとっては高い声の方がむしろ聞き取りにくいです。特に女性は男性に比べて声が高いため、高齢者に対してはむしろ声を低くした方が良い可能性もあります。

声の高さだけでなく、抑揚やスピードも大切です。心配そうな方には落ち着いた声で共感を示してから、気分を上向きにできるよう次第に声を高く弾ませていくのも良いでしょう。また、重要なことを話す際には、あえて声を低くしてゆっくりと話す方が重要性を伝えやすい場合もあります。

4.結論から述べる

診察後、患者さんに病気の概要や治療法を説明する際には「結論から述べる」ことを心がけましょう。病気の内容に関する話は患者さんにとって馴染みがなく、分かりにくいものです。初めに結論が示されていれば、馴染みのない話も聞きやすくなります。

5.顔を見て話す

当たり前のことだと感じる方も多いでしょうが、顔を見て話すことがおろそかになっている医師は意外と多いです。カルテやパソコンに集中しすぎたために、患者さんの顔を十分に見ることができていないかもしれません。

目を見て話を聞くだけでも患者さんは安心します。また、顔を見て患者さんの様子や反応を伺うことも診察においては重要なことです。基本を大切にしましょう。

初診でのコミュニケーション

初診の患者さんは、自分の病気や怪我に関する不安だけでなく、医師が真摯に対応してくれるかという不安も抱えて来院します。まずはこの不安を取り払えるように、ファーストコンタクトを丁寧に心がけましょう。

  1. 挨拶と自己紹介をする
  2. 患者さんの呼び方に気を配る
  3. 話題を用意しておく

1.挨拶と自己紹介をする

挨拶はコミュニケーションの基本です。1日にクリニックを訪れる患者さんは多数いるでしょう。一人ひとりが異なった患者さんであり、異なった特徴を持ちます。一人ひとりを区別するためにも挨拶は効果的です。

患者さんの立場で考えると、初めて会う医師を簡単に信頼することはなかなか難しいでしょう。さまざまなコミュニケーションを通して信頼できるかどうかを見極めます。挨拶は社会のマナーであり、コミュニケーションの基本です。患者さんとの信頼を築くファーストステップとして挨拶は大切にしましょう。

また、その際に自己紹介もするとより好印象を与えられます。自己紹介も挨拶同様、コミュニケーションの基本です。大勢の中の一人としてではなく、特定の個人として扱うためにも、挨拶・自己紹介は忘れないようにしましょう。

2.患者さんの呼び方に気を配る

短い診察の間に初診の患者さんと信頼関係を築くのはなかなか難しいものです。ですが、心の距離感を少しでも縮めるためにできることはいくつかあります。その方法の一つが患者さんを名前で呼ぶことです。

ご高齢の患者さんを「おじいちゃん」、「おばあちゃん」などと呼んでしまったことはないでしょうか?

実はこのような呼び方はあまり好ましくありません。人により、他人から親族のように呼ばれることを好まない方もいます。また、明らかな高齢者扱いを不満に思う方もいるでしょう。相手を大切にする意味も込めて、「佐藤さん」などのように名前で呼ぶのがおすすめです。また、お子様連れの場合は「お子さん」、「お母さん」などと呼ばず、子どもは下の名前で、保護者の方は苗字で呼びましょう。

名前は誰にとっても大事なものです。しっかり名前を呼ぶことで、個人として扱ってもらえていると安心感を与えることができます。

3.話題を用意しておく

初診の患者さんと親しくなるために、ちょっとした世間話は欠かせません。診察に入る前に患者さんの緊張をほぐすためにもアイスブレイクの時間を設けると良いでしょう。

クリニックにはさまざまな患者さんが来院するので、相手の年齢層や性別によっていくつかの話題を用意しておくのがおすすめです。

たとえば、10代の男子であれば甲子園の話、40代の女性であれば調理器具の話などが挙げられます。さまざまな話題を展開できるよう、詳しいとまではいかなくても多少は分かるという分野を増やしておくと良いでしょう。

初診患者さんへの対応例

平日のお昼に女性の患者さんが来院された場合

  • 医師:こんにちは、医師の山田です。よろしくお願いします。
  • 患者:よろしくお願いします。
  • 医師:最近は雨の日が続いて大変ですね。
  • 患者:はい。洗濯物も干せなくて苦労しています。
  • 医師:分かります。最近は部屋干しが多いですが、日の光で干したいですよね。
  • 患者:でも最近の洗剤は部屋干しでも良い匂いになるんですよ。
  • 医師:そうなんですか!私はそういったことに疎くって、主婦の方々には頭が上がりません。
  • 患者:主婦の知恵です!
  • 医師:いつもお疲れ様です。やることも多いでしょうし、身体は大事にしたいですね。
  • 患者:はい。
  • 医師:本日はどうされたのですか?

この時交わした会話内容はカルテなどにメモしておくと良いでしょう。患者さんが再診された際の会話の種になります。

再診でのコミュニケーション

再診患者は初診患者と異なり、医師をしっかり認識・記憶していることが多いです。それに対し、医師も患者さんを一個人として認識していなければ失礼になります。何かあればまたここでお世話になりたいと思ってもらえるようなコミュニケーションを目指しましょう。

  1. 前回の診察時のメモを参考に会話する
  2. 口調を統一
  3. 自身の特徴を理解する

1.前回の診察時のメモを参考に会話する

前述しましたが、患者さんは一個人として扱ってもらいたいもの。以前した会話の内容を覚えていれば喜んでもらえるでしょう。患者さんに信頼されやすくなるのはもちろん、「ここならきちんと診てもらえる」と安心感にも繋がります。

2.口調を統一

患者さんと親しくなり、口調が砕けることもあるとは思いますが、親しくなったとしても敬語を使い続けた方が良いかもしれません。敬語を使うことで医師と患者という関係をはっきりさせ、メリハリをつけることができます。

3.自身の特徴を理解する

これまでは相手に合わせることの重要性を説いてきましたが、コミュニケーションにおいては自分の特徴を理解することも大切です。

たとえば、目つきが鋭く相手に威圧感を与えやすい方は、患者さんを萎縮させないように笑みを絶やさず気さくな話し方を心がけると良いでしょう。また、若く見られてしまい威厳を出すのに悩んでいる方は、ゆっくりとした口調で間を意識しながら話すことで、落ち着きのある風格を演出できます。

話し方一つで印象は大きく変わるので、自身の特徴を捉えて適したコミュニケーションを行いましょう。

再診・かかりつけ患者さんへの対応例

初診での会話を意識した場合

  • 医師:佐藤さん、お久しぶりです。
  • 患者:お久しぶりです。
  • 医師:前回来院された際は熱がひどかったですが、処方させていただいた薬は効きましたか?
  • 患者:はい。おかげで2日ほどで体調が回復しました。
  • 医師:そうですか。前回来られた時は顔色も悪かったので安心しました。そういえば以前、佐藤さんから部屋干しにも適した洗剤があると教えていただいたので、試してみましたよ。
  • 患者:そんな話しましたね。どうでしたか?
  • 医師:はい、部屋干しでも良い匂いになりました。佐藤さんのおかげです、ありがとうございます。
  • 患者:いえいえ、お役に立てたなら良かったです。
  • 医師:やっぱり家事は奥が深いですね。最近はいろいろなものが出ていますし、また何か良い情報があったらぜひ教えてください。……すみません、少し脱線しちゃいましたね。佐藤さんはお話しやすい方なのでつい……それで、本日はどうされたのですか?

たとえば、この医師が目つきが鋭く威圧感を与えやすい医師だとしたらどうでしょうか?

普通は話しにくい印象を与えるかもしれません。しかし自身の特徴を理解し、お茶目な部分を見せて親しみやすさを出すことで患者さんとコミュニケーションを取りやすくなります。

患者さんに寄り添うクリニックとは

患者さんに寄り添うクリニックとは、患者さんに安心感を与えるクリニックのことです。正しい診断を行うことはもちろん重要ですが、それはどのクリニックにも共通する前提条件。かかりつけとして選ばれるよう、患者さんとの信頼関係が強いクリニックを目指しましょう。そのためには、患者さんの話しやすい環境を作り、的確なコミュニケーションを取る必要があります。患者さんが求めているものは何なのかを今一度考えることで、より良いクリニックを作っていってください。

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部   

各種メディアでのコラム掲載実績がある編集部員が在籍。
各編集部員の専門は、社会における機能システム、食と健康、美容、マーケティングなどさまざまです。趣味・特技もボードゲームに速読にと幅広く、個性豊かな開業支援チーム。
それぞれの強みを活かしながら、医師にとって働きやすい医療システムの提案や、医療に関わる最新トレンドの紹介などを通して、クリニック経営に役立つ情報をお届けします。

この連載について

開業応援コラム~クリニック経営の入り口~

連載の詳細

本連載は、開業医の方々の支援を目的としたコラムです。これから独立を考えている、あるいはクリニックを開業したばかりの医師の方々に向けて、クリニック経営に関するお役立ち情報を発信していきます。開業準備や医療設備、人事関係、集患など、コラムによってテーマはさまざまなので、ぜひ参考にしてください。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。