#05 医師として多くのことを在宅医療から学びました
連載:「その人の尊厳を尊重しながら、病気は家で治す。最期まで寄り添う。」
2020.01.13
家は治療における最大のアドバンテージ
自宅には患者さんのそれまで生きてきた歴史があります。患者さんの環境にとって、それまで暮らしてきた自宅に勝るものはないと思います。
たとえ自宅でなくても十分に配慮がされた環境の中で、その人がその人らしく生きていける環境であれば、それもある意味で家と考えてもよいと思います。
病院に入院している終末期の患者さんは、ほとんどの方に笑顔がありません。
私たちが訪問診療で往診した終末期の患者さんの中には、亡くなる直前まで私たちに笑顔で接してくれる方や、家族と笑顔で語られている方がたくさんおられます。
患者さんに笑顔が出るということは、何よりも自分の家にいる安心感からでしょうし、自分の家にいるということは、治療における最大のアドバンテージではないかと思います。
私は、患者さんを家で治すとはそういう意味だと理解しています。
― 石垣院長は、「医師として多くのことを在宅医療から学んだ。」と語られています。それはどのようなことでしょうか。―
人の生に最期まで関わるのが在宅医療
病院での患者さんとのお付き合いは病院の中だけで終わってしまいます。
しかし、在宅医療では患者さんに最期まで寄り添います。その間、その人が病気を抱えながらも生きていく姿や、最期を迎える姿を目の当たりにします。
それは、自分自身の人間としての成長や考え方の成長に大きく繋がります。
私は在宅医療で、患者さんやそのご家族からいろいろな事を学ばせて頂いたと思っています。
医療の原点回帰
在宅医療のニーズは、老年医学の一分野からさらに広い医療分野へと広がってきています。これからは、時代と共に在宅医療の概念も変わっていくでしょう。
医療とは、場所によって提供されるものではなく、病院であっても自宅であっても、患者さんがどこにいても適切に提供できるものでなければならないし、それを目指すべきです。
単に高額な薬剤を使ったり、高度な検査をしたりということではなく、しっかりと人を診て、生活を見て、その人に合った医療を適切に提供するように変わっていくべきです。
これはむしろ医療の原点回帰といえるでしょう。
今後、病院が少なくなっていく状況が見込まれる中で、国民の健康を維持するためには、在宅でも適切な専門医療を受けることができる環境作りが必要ではないかと思っています。
在宅医療の魅力は看取りにあります。
在宅医療をしていて良かったと思えることは、満足しきった患者さんの看取りに立ち会えることです。
病院で死亡診断を行う患者さんには、笑顔の方は少ない。
しかし在宅で最期までやり切ったご本人の顔は安らかで後悔も見えません。ご家族も満足して迎える看取りは、皆さんが本当に笑顔です。
「良かったですね。」「先生、有難うございます。」「それは奥さんが頑張ったからですよ。」
そう言って皆が笑顔で握手したりする最期は、在宅だからできることなのです。
それは医師としての、やりがいでもあります。
最初は、ご家族から「病状が重くなったら病院か施設に入れます。」ということで在宅を始めた患者さんが、具合が悪くなった時に我々がしっかりと対応することで、本人やご家族の心に、「家でも対応ができる。家で暮らすことができる。」という自信が芽生えてきます。
そうして「これなら最期まで自宅で暮らせるね。」と気持ちが変わっていき、最期は在宅で看取りができるというところも、在宅医療の魅力です。
本人にとって死ぬことは初めてのことですし、家族にとっても初めての経験であったりします。
しかし我々は、医療のプロとして患者さんの臨終の姿や、そこに至るまでの生の姿を数多く見てきています。
その経験から、「こんなに良かった終末期がありましたよ。」という話をご本人やご家族にお伝えしながら、できるだけご本人やご家族が満足し、納得できるような最期を迎えられるようにサポートをさせてもらいます。それも在宅医の大切な仕事の一つです。