【動画あり】病院や診療所のM&Aスキームのポイントを解説
2023.04.10
事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのか分からなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。
M&Aと一口に言っても、病院や診療所の場合、その方法は開設主体によって異なる方法で行われます。「法人譲渡」や「事業譲渡」など、恐らくM&Aを検討するまでは聞いたことがないという方もいらっしゃるかもしれません。
M&Aの方法は業界用語で「スキーム(手法)」という言葉を使い話されることが多いですが、自院がどのスキームを用いてM&Aをするのか、方法論や注意点も含めてよく確認をしておきましょう。本稿では開設主体により異なるM&Aのスキームを大きく3つに分けてわかりやすく解説していきます。
目次
- 持分あり医療法人のM&Aスキーム
- 持分なし医療法人のM&Aスキーム
- 個人事業の医療施設のM&Aスキーム
1.持分あり医療法人のM&Aスキーム
「出資持分の譲渡+経営権の承継」
出資持分とは、財産権とも言われ、株式会社における株式持分と似ています。出資をした社員(※医療法上の定められた出資者のことです。従業員ではありません。)は、社員をやめるときの出資持分の払戻請求権と、法人が解散するときの残余財産分配請求権という2種類の財産権を有しています。この出資持分は株式持分同様に譲渡することができるため、その特性を活かしてM&Aが行われます。
持分あり医療法人のM&Aにおいて一般的なのは、出資持分の譲渡と経営権の承継(社員・理事などの経営陣の交代)を合わせて実施するスキームです。
出資持分の譲渡
出資持分を譲渡した際には対価を受けとるのですが、受け取り方は『出資持分の譲渡対価』と『退職金』の2種に割り振られることが多いです。例えば、譲渡価格総額が1億円の場合、5千万円を出資持分譲渡、残り5千万円を退職金で受け取るというような形です。
割り振りの按分は手取りが多くなるよう税金面を考慮したり、法人内にある現預金額で払出しができるかなど、様々要点を精査しM&A時の契約書で定められます。
経営権の承継
次に経営陣である理事を任命する権限は社員にありますので、出資持分を譲り受けて新しい社員となった人が、新しい理事を任命することで、経営権の承継(経営陣の交代)をします。
通常は社員・理事ともに原則全員交代となることが多いですが、理事長のみ社員・理事に残り、引き続き経営にも関与していくケースもあるため、お相手と相談の上決定されます。
2.持分なし医療法人のM&Aスキーム
「経営権の承継」
持分なし医療法人の場合は、出資持分という概念がそもそも存在しないため、当然ながらその譲渡もできません。ただし、持分あり医療法人と同様に、社員の交代、理事の交代というプロセスにより、法人の所有権と経営権を第三者に承継させることが可能です。
では、どうやって対価を得るかといえば、退職金として支払われることが一般的です。出資持分譲渡のように対価の受け取り方を割り振りができない分、税金面を考慮したスキームを作りにくいとも言えます。特に最近は持分なしへの移行を安易に進める方も多いと聞くため、メリット・デメリットをよく精査してから実行に移すようにしましょう。
3.個人事業の医療施設のM&Aスキーム
個人事業の場合、事業は個人に属しており、個人と別の法人という法的な主体が存在しないため、持分や法人を譲渡するという考え方にはなりません。
M&Aのスキームとしては、売り手となる現経営者が病院や診療所の廃業手続きを行い、買い手となる第三者は、新規に事業の開業手続きを行います。(これは、親子間などでクリニックを承継する場合でも、基本的には同じです)。
すると、何を承継するのか、という疑問が生じるかもしれませんが、診療所や病院であれば病床の許認可があります。また、施設の建物、診療所名などのブランド、また、そこに通院している既存の患者さんなど、「営業権全般」を引き継ぐという考え方になります。
その際には、行政の許認可対応等に十分に留意する必要があります。たとえば、病床過剰地域にある医療施設のM&Aの場合、買い手側の開業時に予定していた病床数が確保できないといったことも起こり得ます。
営業権の評価なども含めて、医療経営者だけでは判断が難しいことも多いので、専門のアドバイザーへの相談をおすすめします。
今回は病院や診療所のM&Aスキームの概要部分を解説しました。もっと詳しく知りたい方は、添付の動画をご参照頂いたり、ファンドブック西山賢太までお問い合わせください。
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