#04 患者さんと同じくらい全ての職員も大切にしたい

群馬県沼田市の医療法人大誠会内田病院 理事長 田中志子(たなかゆきこ)氏は、故郷の沼田市が大好きで、慢性期医療が大好きという。 田中志子氏は「地域といっしょに。あなたのために。」の理念を掲げ、「大切な、この故郷のために、地域の老若男女が安心して生きられるようなまちづくりをしたい。医療を通じてまちづくりに貢献したい。医師という専門職の立場から地域を見つめ、まちづくりに役立ちたい。」と話す。 「沼田市認知症にやさしい地域づくりネットワーク」の設立など、幅広い活動で地域に貢献する。 (『ドクタージャーナル Vol.19』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

患者さんのために何ができるかが、病院マネジメントだと思っています。

当時の医療現場には、看護やケアなど個々に良いリソースは沢山あったのですが、機能的な連携ができていませんでした。ですから、やるべきこと、やれることが沢山あって、しかもやればやるほど良くなっていきました。

まず何から始めたかというと、看護師さんたちと一緒に院内業務の改善を考えました。看護業務効率を上げるために、看護師の院内導線とか、病室の配置などを変えました。

仕事の効率化や組織活性化のために役務ごとの委員会もたくさん作りました。そうしてたくさん成功体験を積んできました。全員で取り組むことが私には面白くて仕方なかった。

最初はどうやったら働き易くなるのか、と考え行ってきたことが、結果的に経営に結び付くとは思ってもいませんでした。

ところが自分たちがやってきたことに対して、後から「褥瘡患者管理加算」や「感染防止対策加算」などの報酬が付いてきました。

なるほど、患者さんが望むことをきちんと行うと加算が付いてくるのだ。正しいと信じてやっていけば必ず時代が付いてくる事に気づきました。

例えば、エアマットの導入も最初は病院の完全な持ち出しでした。でも導入すれば患者さんも看護師も楽になる。褥瘡も減ります。褥瘡治療の経費も減らせます。

費用対効果の面から褥瘡の処置にかかる看護師の時間や手間を考えれば、予防に目を向けたほうが良いわけです。褥瘡に関する加算が始まる2年位前のことです。ですから褥瘡患者管理加算が最初から取れて導入時の経費はすぐに回収できました。

訪問診療加算もそうでした。今回の認知症加算も当院では認知症ケア加算1が取れます。

目先の収益ではなく、常に費用対効果を考えて色々なことに取り組んできたことが、結果的に病院経営にプラスに働きました。最初は多額な持ち出しも、後から全て回収できています。

このような経験を積み重ねてくると、これをやることが間違いないと確信したら、経費が掛かってもやろうという信念にもなってきます。

職員は人財。

私は、患者さんと同じくらい全ての職員も大切にしたいと思っています。大切以上に職員が大好きなのです。強烈な片思いに近いかもしれませんが(笑)。

職員満足費というスタッフのための予算を部門長に渡して、使い方もスタッフに任せています。私の考えで進めました。特に外部のコンサルタントは使っていません。

スタッフの育成とは子育てに似ているかもしれません。

採用も全て私が直接行います。採用条件は、基本条件に加えて、覚悟を持って一緒に働けると思えるかどうか、という一点を必要条件としています。

どんなに必要に迫られたとしても、絶対にこの条件だけは譲れません。それでないと、結果的に周りの職員の負担になったり、利用者さんに迷惑をかけてしまったりするからです。また育てる時間とエネルギーや費用も無駄になります。

職員は、家族よりも長い時間をここで一緒に過ごす仲間です。ですから、仕事だけでなく礼儀作法や社会常識、身なりや言葉遣い、それこそお茶の入れ方に至るまで本気で関わって、どこに行っても信用され通用する人財に育てたいのです。

私たちの仕事では、優れた人間性が求められます。そうでないと良質なケアなどできません。

社会人として良識があって愛情豊かな人を育てたい。スタッフには選ばれてここで働いているのだというプライドを常に持ってほしいと思っています。これが私たちの理念の一つにある「共に育む」にも繋がっています。

この記事の著者/編集者

田中志子 群馬県認知症疾患医療センター内田病院 センター長 

医療法人大誠会 理事長、社会福祉法人久仁会 理事長、群馬県認知症疾患医療センター内田病院 センター長。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年病専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、認知症サポート医、認知症介護指導者、日本医師会認定産業医、介護支援専門員。日本慢性期医療協会常任理事、特定非営利法人手をつなごう理事長、特定非営利法人シルバー総合研究所理事長。

この連載について

生まれ故郷をこよなく愛し、大好きな慢性期医療に取り組む

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。