#01 慢性期医療は、かかりつけ医として長い間、患者さんと関わっていく医療

群馬県沼田市の医療法人大誠会内田病院 理事長 田中志子(たなかゆきこ)氏は、故郷の沼田市が大好きで、慢性期医療が大好きという。 田中志子氏は「地域といっしょに。あなたのために。」の理念を掲げ、「大切な、この故郷のために、地域の老若男女が安心して生きられるようなまちづくりをしたい。医療を通じてまちづくりに貢献したい。医師という専門職の立場から地域を見つめ、まちづくりに役立ちたい。」と話す。 「沼田市認知症にやさしい地域づくりネットワーク」の設立など、幅広い活動で地域に貢献する。 (『ドクタージャーナル Vol.19』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

あくまでも、かかりつけ医でありたい。と思っています。

私は子どもの頃から医師になるつもりはありませんでした。父の強い勧めで半ば強制的に医学部を目指すこととなりました。

でも今では、父が言った通り、こんなに生きがいがあって、楽しくて、人とつながっていけるこの仕事は本当に私に向いていたと思っています。毎日が楽しくて、何の不満もありません。今は父に本当に感謝しています。

父は、沼田市の中核病院で外科医として働いた後に、市内に内田外科医院を開業しました。

気さくな父は地域の方々から大変慕われていて、お年寄りから子どもさん、お孫さんまであらゆる患者さんが、さまざまな治療で来院されていました。

朝採りの野菜を持ってきてくれる患者さんとか、地域ぐるみのお付き合いがあり、いわば生活の中に医療があり、子どもの頃から医療は生活と直結していました。

その後、現在の医療法人大誠会 内田病院に至っています。父が取り組んでいた「かかりつけの医療」が、そのまま病院になったのが内田病院です。

幼い頃から、ホームドクターとして地域の方々と接する父を見て育ちましたので、どのような立場になろうとも、私も常に、地域に貢献する一人のかかりつけ医でありたいと思っています。

医師の務めとは、患者さんの望んでいることに忠実に応えることだと思っています。その根本にあるのは一言でいえば「愛」と言えるかもしれません。

愛情がないと、患者さんのことを我が事のように考えることはできません。それも父から受けた影響が大きかったと思います。今でも私にとって父は、良き先輩であり相談役です。

慢性期医療と出会う。

平成3年に大学を卒業した後、父の強い希望で地元の群馬に戻ることになり、4年間ほど群馬県内の大学病院や救急病院などで研修医として経験を積みました。

その後結婚が決まり、婚約期間の1年間を軽いアルバイト感覚で父の内田病院で働くこととなりました。平成7年の頃でした。

父の病院は、慢性期医療を中心とする病院で、それが私と慢性期医療との出会いでした。

最初の頃はやるべきことがたくさんあり、さまざまな苦労や悔しい思いも経験しましたが、一つひとつの成功体験を積んでいくうちに慢性期医療が大好きになり、同時に医師という仕事も大好きになりました。それ以来、ずっと慢性期医療に携わっています。

今では日本慢性期医療協会という専門団体もありますが、その当時はまだ慢性期という概念はなかったと思います。慢性期医療という言葉さえ周知されていませんでした。

慢性期医療は急性期とは違う医療です。急性期医療では、患者さんが退院するとその後に関わることはまずありません。でも慢性期医療は、かかりつけ医として長い間、患者さんと関わっていく医療です。

ここでは入院したおじいさんのお見舞いに来ていた孫が、やがて親になってお見舞いに来るようなこともあり、患者さんとの長い伴走になります。

慢性期医療では、患者さんとは長い時間の関わりとなり、時には10年以上になることもあります。その間患者さんの家族の世代変わりもまざまざと見ながら付き合っていくのです。「地域といっしょに。あなたのために。」という当院の理念が、まさに慢性期医療であるといえます。

この記事の著者/編集者

田中志子 群馬県認知症疾患医療センター内田病院 センター長 

医療法人大誠会 理事長、社会福祉法人久仁会 理事長、群馬県認知症疾患医療センター内田病院 センター長。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年病専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、認知症サポート医、認知症介護指導者、日本医師会認定産業医、介護支援専門員。日本慢性期医療協会常任理事、特定非営利法人手をつなごう理事長、特定非営利法人シルバー総合研究所理事長。

この連載について

生まれ故郷をこよなく愛し、大好きな慢性期医療に取り組む

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。