#04 免疫療法が、呼吸器感染症や重症のアトピー性皮膚炎の治療にも利用できないかと考える

NPO法人東京アレルギー・呼吸器疾患研究所の常任理事、副所長の渡邉直人医師は、アレルギー呼吸器科の専門医として、4箇所の医療機関に勤務している。 気管支喘息(以下、喘息)やアレルギー疾患が専門分野で、薬剤アレルギー、食物アレルギー他、各種アレルギー疾患の診療に携わっている。喘息やCOPDの臨床診療をはじめ、アレルギー疾患に対する免疫療法(減感作療法など)も行っている。勤務先の蔵前内科クリニックでは、肺癌や難治性の呼吸器感染症に対してNK細胞を利用した免疫療法も行っている。 今後はアレルギー疾患に対する禁煙活動(ブルーリボン)を推進し、一般臨床医に適した喘息の治療指針を提唱していく構想を練っている。 (『ドクタージャーナル Vol.6』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

自己NK細胞免疫療法

蔵前内科クリニックでは手術のできない進行がん・末期がん・手術後のがん再発防止を目的とする患者さん等に、第四の癌治療として活性化自己NK細胞治療に力を入れています。

体内のがん細胞を攻撃するものとして、リンパ球中のキラーT細胞(細胞障害性T細胞)とNK細胞(ナチュラル・キラー細胞)が知られています。

蔵前内科クリニックでは、体外において、独自のNK細胞多量培養方法により培養NK細胞比率90%以上という高い培養技術でNK細胞を増やすことに成功しました。現在、この技術を活用し、自己免疫力を高めながら、各臓器における種々の癌に対する治療を試みております。

蔵前内科クリニックの特徴は、専用の培養施設を有し、院内でNK細胞の培養を行っているということです。クリニックにおいて独自でNK細胞の培養を行っているのは珍しいと思います。

その培養方法は、患者さんから採取した血液を、科学的な培養技術で細胞を刺激、活性化し、約2週間無菌状態で NK細胞(キラーT細胞も含まれています)を増殖させます。

自己NK細胞免疫療法とは、増殖させたNK細胞を再び患者さんの体内へ点滴静注にて戻すというものです。1回量で約10億~50億個のNK細胞を投与できます。

通常健康人の場合、体内に流れる血液量を約4~5Lとして、約5~10億個のNK細胞が存在します(がん患者の場合はより少ない状態です)。したがって、自己NK細胞免疫療法の1回の投与量は、約10人分のNK細胞数に相当するとも言えます。

しかも、本人の免疫細胞なので 、拒絶反応・副作用がありません。自己NK細胞免疫療法は、がん治療の新しい選択肢であり、これから第四のがん治療法として期待されます。

自分の免疫力で戦うということ

私は、この活性化自己NK細胞治療が肺癌同様、呼吸器感染症および重症の喘息やアトピー性皮膚炎患者さんの治療として利用できないかと考えています。これは十分根拠のある新しい取り組みだと思っています。

また、季節によってインフルエンザが流行ってきますが、重篤な呼吸器感染症、例えば鳥インフルエンザやSARSのような、現行の治療法では有効性が確立されておらず、強力な毒素に対して治療薬がないという厳しい状況の中では、自分の免疫力で戦うしかありません。

そのような緊急時には、NK細胞免疫療法が有用だと考えます。NK細胞は、癌細胞にも、ウィルスにも有効ですので、根治治療の他に、事前に投与する事で予防効果が得られると考えています。

しかし先にも述べたようにNK細胞の培養には2週間の時間が掛かります。事前に培養した自己NK細胞の投与によるウィルス感染予防は可能ですが、いざ罹患してからでは、2週間の培養期間は手遅れとなってしまう可能性も危惧されます。

現在、患者さんの血液サンプル(単核球)を冷凍の形で事前に採っておき、必要な時に応じて、NK細胞を培養できる仕組みが整い実行しています。

今後は培養したNK細胞の感度を落とさず、保存できるシステムが確立すれば、緊急時の治療も可能になり、さらなる発展に繋がると思います。

この記事の著者/編集者

渡邉直人 NPO法人東京アレルギー・呼吸器疾患研究所 副所長 

NPO法人東京アレルギー・呼吸器疾患研究所 副所長、常任理事。日本アレルギー学会認定指導医(専門医)、代議員。
神奈川県横浜市出身。1988年獨協医科大学卒業、同アレルギー内科 入局、1999年獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科病棟 副医長、2002-2004年ロンドン大学キングスカレッジ校留学、2005年聖マリアンナ医科大学 呼吸器感染症内科 講師、2012年東京アレルギー・呼吸器疾患研究所 副所長(常任理事)

この連載について

NPO法人を設立し、アレルギー・呼吸器疾患の予防および診断・治療の普及に取り組む

連載の詳細

NPO法人東京アレルギー・呼吸器疾患研究所の常任理事、副所長の渡邉直人医師によるアレルギー・呼吸器疾患の予防および診断・治療の普及に関する連載。 渡邉直人氏はアレルギー呼吸器科の専門医として、4箇所の医療機関に勤務している。 気管支喘息(以下、喘息)やアレルギー疾患が専門分野で、薬剤アレルギー、食物アレルギー他、各種アレルギー疾患の診療に携わるエキスパート。喘息やCOPDの臨床診療をはじめ、アレルギー疾患に対する免疫療法(減感作療法など)も行っている。勤務先の蔵前内科クリニックでは、肺癌や難治性の呼吸器感染症に対してNK細胞を利用した免疫療法も実施。 今後はアレルギー疾患に対する禁煙活動(ブルーリボン)を推進し、一般臨床医に適した喘息の治療指針を提唱していく構想を練っている。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。