#04 神奈川県央地域における地域医療のモデルケースを作りたい。

社会医療法人ジャパンメディカルアライアンスの歴史は、今を遡ること40年前に「救急こそが医療の原点である」という信念のもと、志を共にした日本医大卒業の若き4人の医師が6年の準備期間を置き、昭和48年に、病床数50の病院として埼玉県北葛飾郡杉戸町に医療法人仁愛会東埼玉総合病院を開院したことに始まる。 その10年後、昭和58年9月には神奈川県海老名市に海老名総合病院を開院し、平成15年に医療法人仁愛会から医療法人社団ジャパンメディカルアライアンスに名称変更した。  平成21年には複数の都道府県にまたがる法人としては全国初の厚生労働大臣認定の社会医療法人に移行し現在に至る。 (『ドクタージャーナル Vol.10』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

海老名内科フォーラムという研究会を作る

鄭氏:私が18年前に消化器内科医として赴任してきた当時、私の臨床医としての経験では最も忙しかったのですが、それでも専門医としての治療はポリープ切除か胃潰瘍の出血処置くらいで、他に一般内科医としての仕事が沢山ありました。

それこそ急性期医療から緩和・看取りまで全部担当していました。当時はそれが出来たのです。

ところが今や消化器内科医が出来ることとは、C型肝炎も治る時代となり、肝臓癌の局所治療も今や内科医が行っています。胆道系の内視鏡治療まで行えるようになってきました。有効な抗がん剤治療の普及も同様です。

今や消化器内科医の担当領域は莫大に増えてきています。

さらにはインフォームド・コンセントに掛ける時間も増えてきています。私が20年前に行っていた一般内科診療も含めた医療を今の若い病院医師に行わせることは不可能です。

私自身にとってもこの何年間かの間で、消化器内科医としてやるべきことが確実に増えてきており、一人で外来や慢性期から急性期の患者さんまでも診ることは絶対に無理で、機能分化の必要性を痛感していました。

地域の先生方に一般外来を診て頂きたい。そうしなければ勤務医が潰れてしまいます。

そこで、地域のクリニックの先生方には一般外来を診て貰う方向性を目指し、10年前に海老名内科フォーラムという研究会を作りました。そこでは地域のドクターと顔の見える関係づくりを進めています。

これからはゼネラリストの医師が必要

鄭氏:患者さんのアクセスは抑制できないので、アクセスのあり方を変える事で、クオリティとコストも両立させてゆくことが必要ではないでしょうか。

これから高齢者社会になってゆくと、受け入れ態勢の整備がさらに求められてきます。

一方、医療の専門分化が進むと受け入れの足かせになってきます。そのことで特に困るのは高齢者の患者さんたちです。持病もあるでしょうし、症状だけではどの診療科に送ったら良いのか判断に迷う場合も多々起きてくるでしょう。

そこで求められるのはゼネラリストとしての医師、つまりかつての一般内科医の姿に回帰しなければならないのです。

ゼネラリストの医師がゲートキーパーとしての役割を担当する事で、内科系疾患でいえば恐らく7割から8割位の疾患に対処できるはずです。これは病院に限らず、地域のかかりつけ医の先生方にも当てはまることではないでしょうか。

ですから海老名内科フォーラムの研究会の講演では、地域の先生方と共に「明日からの診療に役に立つ知識を学びましょう」をモットーに、「どこまでが自分たちで診れるのか、どこからが専門医に紹介するポイントなのか」など具体的なテーマで講師を招いて講演してもらっています。

鄭 義弘

地域の中で完結できる医療・福祉環境を作る

鄭氏:この34万人を有する県央地域において、当法人が中心となって地域と連携しながら、海老名、綾瀬、座間3市の救急患者さんの受け入れ態勢を確立してゆく。

地域の高齢化率も確実に高くなっていきますので、その後のケアも含めて可能な限り県央3市の中で完結できる医療・福祉環境を作っていきたいというのが、私どもの目指すべき方向と考えています。地域に貢献する医療・福祉環境の整備を目指すということでは埼玉や下田でも同じことが言えます。

地域医療にとって重要なこととは、住民の方にとって医療からその後の介護や福祉まで全てがその地域の中で完結できるという、地域全体がそのまま一つの医療機関であることだと思います。

さながら道路は病院の廊下で、地域のクリニックが外来、入院ベットが病院、そこに介護が入ることで本来の地域包括ケアシステムと言えるのではないでしょうか。

地域のかかりつけ医の先生方には、今後ますますその役割を担って頂きたいと思っています。そのためには、我々からの情報発信もさらに強めていかなければならないと感じています。そのような取り組みでこの県央地域を地域医療のモデルケースにしたいと思っています。

多様な経験が積めて、長く働く事ができる。

鄭氏:医師にとって今までは、自分が何をしたいか、何ができるかでよかった。しかしこれからの医師は、地域や現場で医師としての自分に何が求められているのか、何をしなければならないのか、を考える事が重要です。

若い医師の皆さんにはそれを前提にして自分の立ち位置やキャリアプランを考えて欲しい。さらに言えば、これから高齢化社会が急速に進んでいきます。お年寄りを好きでない人は臨床医としてはやっていけません。このことは医学生も含めた若いドクターに特に訴えたいことです。

我々が目指しているのは地域で必要とされる医療と住民の後方支援となる福祉を提供することです。急性期もあり、一般急性期もあり療養もあり、介護もあり、地域も神奈川、埼玉、静岡県下田と、働く選択肢が非常に多い医療法人なので、長く働くことができます。

医師としてのキャリアビジョンを考えた時、いろいろな医療を経験でき、いろいろな場所での医療を経験できることが一般の病院勤務と違う、当法人の強みでもあり特徴です。ですからより多くの方に当法人で同じ目標を持った仲間として働いて頂きたいと願っています。

この記事の著者/編集者

鄭義弘 社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス(JMA) 理事長 

医療法人社団ジャパンメディカルアライアンス理事長、医師(消化器内科)。昭和61年東海大学医学部卒、東海大学医学部付属病院臨床研修医、平成8年医療法人社団ジャパンメディカルアライアンス(旧 仁愛会)海老名総合病院内科、平成10年海老名総合病院内視鏡室科長、その後同病院消化器内科科長、内視鏡センター長等を経て、平成16年医療法人社団ジャパンメディカルアライアンス理事、平成21年社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス副本部長、平成23年理事長就任。

この連載について

地域医療連携と機能分化で地域内完結型の医療・福祉の実現を目指す社会医療法人

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。