第三者へ継いでもらう方法(M&Aを成功させるポイント編)

<本連載について>
事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのか分からなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

〈今回の記事について〉
前回は、第三者承継(M&A)のメリットやデメリットについて解説しました。今回は、M&Aを成功させるためのポイントについてお伝えをしていきます。

【今日からはじめる事業承継6日目】
M&A成功のポイントは大きく3つ

これまでたくさんの事業承継をお手伝いしたなかには院長・家族・従業員・患者の誰もが幸せになる素敵なM&Aもあれば、苦渋の決断を下さなければならないM&Aもありました。

M&Aをより上手く活用して希望の相手に・希望に近い条件で承継を成立させるためには、大きく3つのポイントがあります。

そのポイントとは、『タイミングの見極め』『目的の整理』『アドバイザー選び』です。本稿ではこれらのポイントについて深堀りをしていきましょう。

1.タイミングの見極め

まずは1つ目は『タイミングの見極め』です。
言い換えれば、譲渡側が優位なタイミングから事業承継やM&Aを検討することが大切です。なぜなら、診療所の売上が毎年下がっていたり、評判が以前よりも落ちてしまった、職員にも元気がない状態になってしまったら、どれだけ子供がやる気でも二つ返事で継ぐことはできないから、それは他人であっても同じです。

「半年後に診療所を閉じるから一か八かでお相手を見つけて欲しい・誰でもいいから後継者を見つけてください」
こんな相談をもらう機会も年に何回かはあります。そしてもちろんできるだけのことはお手伝いしますが、いずれも誰もが幸せであったか・納得できていたかでいうとそうでないことが多いです。

「もう10年早ければ息子が継いでくれたのに」「5年前であれば希望の条件で交渉できた」「もう少し早く準備だけしておけば1年もモヤモヤしなくて済んだ」こんな声を多く聞いてきたからこそ敢えて言いたい。
最も理想的な事業承継は、理事長・院長自らが承継する相手をしっかり「見極めて選ぶ」ということです。その相手は子供や甥っ子姪っ子、副院長や非常勤医師、あるいは第三者のどれもが正解ですが、選ぶためには相応の準備と時間がどうしても必要になってくるものです。

「俺は70歳・80歳まで診療を続けたい」というお気持ちがある先生もたくさんいらっしゃると思いますが、私たちは引退をして欲しいと言っているわけではありません。
ただ、診療所を後世に残したいという気持ちがあるのであれば、まだ早いかな?というタイミングからいつ事業承継を実行するのがベストな選択なのか継続的に考える、これが成功のポイントだといえるでしょう。

2.目的の整理

2つ目は「目的の整理」です。
事業承継をなぜしなければならないのかをじっくりと考えてみましょう。私たちのようなアドバイザーが目的を尋ねるのは、先生方が原点回帰できる部分を明確にしておくという理由もあります。

正直な話をいうと事業承継やM&Aはうまい話ばかりではありません。先生方に苦しい決断を伴うこともあるかもしれません。その際に目的が明確であれば、「軸をぶらさない選択はどちらなのか」という視点で物事を決断することができるのです。

事業承継の目的は、先生の性格やこれまでの生い立ちによってかなり違うというのがストレートな印象です。
「自分が作った診療所を後世に残す、これが最も大切なんだ」という方もいれば、「長年一緒に仕事をしてくれた従業員の雇用を守ることが経営者としての責任」という人もいます。
あるいは「今の診療所を拠点に介護事業や訪問診療ができる相手と組み、発展性を重視したい」「細かいことは気にしないから1円でも高く買ってくれる方がいい」など本当に様々です。

目的に間違いや正解というものはなく、率直なお考えや希望をアドバイザーにお伝えいただくことをお勧めします。そして、この目的設定はアドバイザー視点に立つともう1つ重要な役割を果たします。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、この目的に応じて私たち提示するお相手・候補先が全く異なります。

例えば、診療所を残すということを考えると同じ医療圏で診療所を複数運営しているAグループが良さそうだ。発展性を重視したいなら介護事業と在宅医療にも注力しているBグループの相性が◎。経済面を重視したいのであれば、是が非でもこの地で拠点拡大をしたいと考えているCグループ。

このように、「法人の状況」+「目的の掛け合わせ」で私達アドバイザーの推薦は変化します。時には個人医師とのマッチングがベストな時もあります。なので、特に、大きな医療法人グループなどを候補先にならべ、上から当たっていきましょう!などという仲介会社には注意して下さい。その都度都度、候補先の状況も異なりますし、そもそも事業体として検討対象外としている可能性もあります。

目的が定まらないと、いつまでも腹落ちしないようなお相手が紹介されてしまう可能性もありますのでしっかりと整理整頓を心掛けましょう。

3.アドバイザー選び

最後の3つ目は適切なアドバイザーを味方にすることです。
「適切な」という言葉を嚙み砕くと、「医療への理解」と「医療の事業承継・M&Aの経験」を有していると言い換えられます。この2つはアドバイザー選定時に特に重要視をしていただきたい点です。

なぜなら、医療に詳しくないアドバイザーは、病院や診療所の現状を正確に理解したり、医療特有の常識・非常識も知らないため、今後のポテンシャルや伸びしろを正確に把握するのが難しいからです。そんな状態であれば尚更、理事長・院長のお考えや希望にマッチしたお相手が出てくる方が奇跡といえます。
また、病院や診療所は株式会社と違い医療法による縛りがあるため、一歩間違えれば行政指導を受けたり思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もありますので、より慎重にアドバイザーを選定する必要があるのです。

最後に、目の前のアドバイザーが医療に詳しいか否かを見極めるコツをお伝えします。
一言、「医療法人のM&Aはどうやるんですか」と聞いてみましょう。

馬鹿げた質問かもしれませんが、これが意外に効きます。精通しているアドバイザーであれば即答しますが、詳しくない人だと出資持分や医療法人特有の社員という概念を知らず、しどろもどろになります。
余裕があれば、過去にどんな医療機関の事業承継を支援してどういう相手のどのようなM&Aが成立したのか、そのポイントは何だったのかを聞いてみましょう。これがさらっと答えられるようであれば、合格点をあげてもいいのではないかと思います。

まとめ

今日からはじめる事業承継6日目は、M&Aを成功させるポイントについて解説をしました。そのポイントとは『タイミングの見極め』『目的の整理』『アドバイザー選び』の3つです。これらがなぜ大事なのかは本稿で理解をいただけたらと思いますので、ぜひ今後の事業承継にお役立ていただけたら幸いです。

次回は第三者承継を成功させたある院長の実例からヒントをお伝えいたします。

株式会社fundbookの基本情報

会社名株式会社fundbook
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所在地東京都港区虎ノ門1-23-1 虎ノ門ヒルズ森タワー24F
TEL03-3591-5066
事業内容M&A仲介事業

fundbookは最先端のテクノロジーとアドバイザーの豊富な経験を融合した新しい形のM&Aを提供する会社です。2021年に創設された「ヘルスケアビジネス本部」には、病院・診療所の事業承継・M&Aを200件以上成約に導いてきたメンバーが揃い、業界最大級の経験と実績に基に安心と成果を提供します。M&Aに関するコラムやM&A事例なども多数紹介しています。

この記事の著者/編集者

西山賢太 株式会社fundbook アソシエイトヴァイスプレジデント 

株式会社fundbookヘルスケアビジネス戦略部所属。薬剤師・調理師・医療経営士。埼玉県済生会川口総合病院にて薬剤師としての実務経験を得た後、新たな視点で医療業界に貢献したいという思いから株式会社fundbookへ入社。病院・診療所における事業承継やM&Aのほか、事業計画策定・病床機能転換など経営支援にも携わる。

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医療を未来へつなぐために「今日からはじめる事業承継」

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事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのか分からなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。