#03 革命的なICF(国際生活機能分類)の考え方

神経内科医でリハビリテーション医でもある石垣泰則氏は、在宅医療の第一人者である佐藤智氏の「病気は家で治す」の教えに強い感銘を受け、20年以上に及び神経内科専門の在宅医療に取り組んでいる。 その経験の中で、家や家族、そして地域そのものに治癒力が宿っていることを実感すると語る。 「リハビリテーションの真髄は在宅に在り」と信じ、日常診療に取り組んでいる石垣泰則氏は、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会の副会長として、在宅医療体制の充実を目指す活動にも日々尽力している。 (『ドクタージャーナル Vol.25』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

ICF(国際生活機能分類)の考え方とは。

― リハビリテーションに関連したテーマとして、最近では、個人の障害に対する考え方や捉え方が大きく変わってきていると伺いました。どのようなことなのでしょうか。―

WHO(世界保健機関)が定めている障害に関する国際的な分類としては、1990年代はICIHD(国際障害分類)だったのですが、最近ではICF(国際生活機能分類)に考え方が変わってきています。

私は以前より、ICIHD(国際障害分類)の考え方には疑問を持っていました。

ICIHD(国際障害分類)では、障害を生じさせている個人の機能が改善しなければゴールは達成できないという考え方です。

しかし、ICF(国際生活機能分類)は、障害は障害として受け入れて、例えば歩けないのなら車いすを使って移動すれば仕事場にも行けるという考え方です。

呼吸障害のあるALSの患者さんにとって必要な人工呼吸器は、一般の人からは、たいそうな医療機器に見え、でそれだけで大きな障害だと思われがちです。

しかし、人工呼吸器があたかも眼鏡と同じような感覚で使えるようにテクノロジーが進歩すれば、ALSの患者さんで呼吸障害があっても普通に生活ができる、仕事もできるようになります。そういう時代を目指すべきではないかと思うのです。

そのためにはテクノロジーの進歩と同時に障害に対する考え方の進歩も重要で、障害がICF(国際生活機能分類)の考え方に変わったということは、一つの革命にも匹敵するものではないかと思っています。

―ICF(国際生活機能分類)とICIHD(国際障害分類)―

障害に関する国際的な分類として、従来は世界保健機関(WHO)が1980年に「ICD(国際疾病分類)」の補助として発表した「ICIHD(国際障害分類)」が用いられてきたが、その改訂版として、2001年5月に「ICF(国際生活機能分類)」が採択された。

「ICIHD(国際障害分類)」では、障害を「機能障害」「能力障害」「社会的不利」という3段階のレベルに分類している。

しかしICIHD(国際障害分類)の考え方では、障害をハンディキャップとし「できない」と言ったマイナスで否定的に捉えられてしまうなどの問題点があり、障害を持つ人の社会復帰を目指すものではなかったといえる。

それに対して、「ICF(国際生活機能分類)」とは、人間の「生活機能(人が生きていくこと)」と「障害(何らかの理由で人が生きていくことが制限されている状況)」を判断するための「分類」方法を示したもので、障害があっても「こうすれば出来る」と言ったような、ポジティブな考え方で捉えようとする見方である。

人間の生活を障害の有無のみではなく、日常活動や社会参加の状況、また周囲の環境など広い視点から理解し、サポートにつなげることを目的としていて、障がい者への偏見や差別を無くすものであると考えられる。

これまでは人間の障害や生活機能を考える際に、「医学モデル」と「社会モデル」という考え方が主流だった。

「医学モデル」とは、障がい者が受ける社会的不利はその障がい者個人の問題だとする考え方で、病気やけがなどが障害を引き起こすものとして理解される。そのために障害への対応には医療が必要不可欠なものとされている。

一方で「社会モデル」では、障がい者が受ける社会的不利は社会の問題だとする考え方で、障害は周囲の環境によって作り上げられるものとされている。そのため社会の環境を変えることが障害をなくすことにつながるとの考え方である。

この「医学モデル」と「社会モデル」を統合するものが「ICF(国際生活機能分類)」といえる。

つまり、障害を個人と周囲の環境の双方からとらえ、人間の状況を全体的に理解することを目指している。

この記事の著者/編集者

石垣泰則 コーラルクリニック 院長 

一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長、一般社団法人日本在宅医学会理事、
医学博士、日本内科学会認定内科医、日本神経学会神経内科専門医、日本在宅学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本医師会認定産業医、介護支援専門員
1982年順天堂大学医学部卒業、順天堂大学医学部脳神経内科入局、1990年城西神経内科クリニック開業、1996年医療法人社団泰平会設立 理事長、2009年コーラルクリニック開院

この連載について

「その人の尊厳を尊重しながら、病気は家で治す。最期まで寄り添う。」

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。