#01 【英裕雄氏】在宅医療の延長線としての外来診療とは
連載:在宅医療で培った資源を活かした地域のかかりつけ医を目指す
2020.06.17
1996年の開業時から在宅医療に取り組んできました。
最初の開業は1996年の曙橋内科クリニックでした。その後、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業し、2015年に現在の新宿区大久保で新たに新宿ヒロクリニックを移転開業しました。今年で最初の開業から21年目になります。
開業当初から在宅医療に取り組んできましたが、当時はまだ介護保険もなく、在宅医療も本当にごく一部の医師が行っていたような状況で、周囲には教えてくれる人はいませんでした。在宅医療を学ぼうという気持ちから手探りで始め、独力で試行錯誤を重ねてきました。
当時一部の医師たちからは、これからは在宅医療が重要になっていくと言われていましたが、世の中の在宅医療に対する認識はまだ低かった頃です。それでも当時から、在宅での医療ニーズはありました。しかしそれは、かかりつけ医療の延長線であって、現在のようなシステムとしての在宅医療ではありませんでした。当然24時間対応も多くはありませんでした。
また多くの場合は、救貧的というか、人道支援の色彩が強く、在宅で最期まで看取るとか、自宅での治療を構築してマネジメントするということではなかったです。最初の頃はなかなか患者さんが来なくて、病院とか訪問看護ステーションに働きかけて、ようやく集まるようになってきましたが、それでも月に5人ほどでした。
その後、徐々に患者さんが増えてきたので、在宅医療専門のクリニックに切り替えました。患者さんの医療ニーズに応じた対応をして行くうちに、在宅医療に馴染んでいった。というところが正直な実感です。
医師にとって、在宅医療には多くの魅力があります。
在宅医療の魅力はたくさんあります。当クリニックのドクターの中にも、外来診療よりも在宅医療をしたいという人が多くいます。なんといっても、フィールドとしての楽しさがあります。
外来診療では仕方のないことですが、患者さんとはクリニック内での限られた時間での関わりとなります。しかも本人の生活環境が分からないし、介護の状態も分からないので適切なアドバイスが難しく、医療的な対応だけになってしまいます。患者さんが抱える医療以外の問題に対しての対応が難しいのです。
しかし在宅医療では、患者さんとの関わり方が違います。その人の人生に健全に寄り添っている実感性が強くあります。例えば、外来の患者さんで認知症があり高血圧もあるのに、介護の問題があるために、なかなか来院できない場合、こちらから積極的にアプローチするのは難しい。
在宅医療だとそれが一緒にできる。しかも健全にできるのです。さらに進んでいくと、患者さんやご家族との一体感が強くなったり、様々な協調関係に変わってくるのも在宅医療ならではの魅力です。
在宅医療の変貌に伴い、事業変容していきました。
新宿区西新宿で開業していた2001年から2009年くらいまでは在宅医療の患者数は伸びていましたが、その後は横ばいか、むしろ若干の減少傾向にありました。当初から在宅専門の医療機関としての位置づけでやってきましたが、この間の在宅医療の内容が非常に変貌していきました。
例えば、終末期のがんの患者さんで、ぎりぎりまで病院で治療して、最後の3日位を在宅で過ごすというような、非常に在宅医療の期間が短い人とか、入院が難しい困窮家庭の方とか、家族の介護力が極端に弱い方とか、いわゆる一般的な在宅医療の患者さんが減って、症状や生活環境が際立った在宅の患者さんの数が増えていきました。
これは、当クリニックの専門性や地域環境の特殊性による理由も大きかったと思います。このような状態で、自分たちは本当に地域の支えになっているのか、という振り返りから、2015年に現在の場所に新たに移転開業しました。
移転を契機に、かかりつけ医療機関の新しい在り方として、患者さんの社会生活がさまざまに変化しても一貫して対応できる総合診療を目指し、在宅医療に加えて外来診療も行うように事業変容してきました。移転については、最初から考えがあって大久保という地域を選んだのではなく、理想的な医療物件がここにあったということが一番の理由でした。しかし都内でも特殊な地域ということもあり、移転に際しては院内で賛否両論がありました。
在宅医療の延長線としての外来診療です。
現在私たちは、外来診療にも力を入れています。それは、在宅医療の延長線として外来診療を捉えているからです。私たちのように、在宅医療から外来診療に進むというのは稀な事例かもしれません。それまでの私たちは、在宅医療で患者さんの社会生活性を伸ばすことを大きな目標としていました。
しかし、虚弱になった患者さんが全て、必ず在宅医療になるわけはなくて、外来に来られている虚弱な患者さんも多くいます。そのような人に対しても、様々なアイテムを使い社会生活性を伸ばすことが、これからの、かかりつけ医療だと考えました。つまり、在宅医療で培ってきたいろいろなアプローチを、外来診療でも活かすということです。
外来診療に在宅医療の体制を取り入れる。
実際に外来診療にも取り組むことで、在宅医療で蓄積してきたことがとても活きていると感じます。在宅で診ていた患者さんが、病態が良くなって外来に移るということもありますが、在宅医療の患者さんでも、在宅ではできない検査や医療的な処置が必要な場合もあります。そのような時にはクリニックの外来に来て頂きます。検診も外来で行います。
また在宅医療と同じように、外来診療もチーム医療で対応します。ですから、ドクターも複数体制で動いていますし、チームには看護師に加えて栄養士や理学療法士なども加わります。外来診療にも在宅医療と同じように総合診療的な体制で臨んでいます。
(続く)