#02 高瀬義昌氏:家族療法におけるリフレーミング技法。

東京都大田区で訪問診療を中心に取り組む「たかせクリニック」。院長の髙瀬義昌氏は臨床医学の実践経験・家族療法の経験を生かし、「高齢者が安心して暮らせる街」作りに取り組んでいる。 高瀬義昌氏の活動は、24時間在宅診療、医師会、地域ケア行政、日米医学医療交流、執筆、テレビ、マスコミでの啓発活動等、幅広い分野に及んでいる。 「認認介護」という言葉で、認知症の人が認知症の人を介護しているという現実を最初に訴えたのも高瀬義昌氏だ。 同氏は、在宅療養空間というシステムを安定させること、『システムスタビライザー』として機能することが在宅医療の役割だという。 (『ドクタージャーナル Vol.17』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

リフレーミングを経験する

小児科医として勤務していた時に家族療法の一法としてリフレーミングを勉強しました。

両親が不仲な小児喘息の患者さんがいました。両親は食事も毎晩別々に出かけてしまうというような状態でしたので、子供の薬の服薬管理もされていませんでした。

当然その子供の患者さんは入退院を繰り返していました。そこで診察室の医者が座る席と患者さんの席を入れ替えてセラピーを行ってみたり、週に1回は両親揃っての食事をお願いしました。

そうすると本人、両親による服薬管理も上手くできるようになり、子供さんの喘息も良くなりました。それまで不登校気味だったのも学校に行けるようになりました。おそらくは、両親の関心が子供さんに向いた結果だと思います。

この成果の大きさには驚きました。ある事象を、考え方の枠組みを変えることで、ネガティブに回っている負のスパイラルをポジティブなプラスのスパイラルに変える。それがセラピストとしての力量の問われるところでもあると痛感しました。

― 家族療法におけるリフレーミング技法とは、ある枠組みで捉えられている物事を、既存の枠組みをはずして、違う枠組みで見ることを指す。

心理的な枠組み(フレーム・視点)を変化させることによって、ある体験や事物がもつ意味を変化させようとする技法のこと。

「リフレームの目的は、今までの考えとは違った角度からアプローチしたり、視点を変えたり、焦点をずらしたり、解釈を変えたりと、誰もが潜在的に持っている能力を使って、意図的に自分や相手の生き方を健全なものにし、ポジティブなものにしていくことです」※西尾和美「リフレーム 一瞬で変化を起こすカウンセリングの技術」より。

同じ物事でも、人によって見方や感じ方が異なる。それを、角度を変えて見る(リフレーミングする)ことで、関係を健全なものにしたり、ポジティブなものにしたり、さらには実際の問題を解決するカウンセリング技法である。

アメリカでは25年も前から、患者の家族関係をはじめ患者に関わるすべての人の信頼関係が治療効果を左右する重要なファクターの一つとして注目されていた。―

1988年には、家族療法についてさらに知りたいと思い、アメリカのペンシルベニア大学にあるフィラデルフィア小児病院という全米最古の小児病院の視察に行きました。

その小児病院内にはフィラデルフィア・チャイルド・ガイダンス・クリニック(P.C.G.C.)という施設があります。日本でいうと児童相談所のようなところですが、カウンセリングルームが100室もあり、そこでは患者に目を向けるだけでなく、家族、特に両親への心理療法的アプローチが行われ、見事な成果をあげていたのです。

たまたま視察時に、夫婦仲が悪い両親に育てられている白血病患者の子供の在宅医療について、病院のドクターと看護師、在宅のチームドクター、両親の三者によるカンファレンスを見学する機会がありました。

カンファレンスでは、両親が不仲だと家庭環境も不衛生になり肺炎で再入院になりかねないから、子供の在宅医療にはまず両親の関係を改善する必要がある。という話し合いが行われていて、それを医師ではなく家族療法のスーパーバイザーが中心となって行われていました。

当時のアメリカにおいては、家族だけでなく家族と医療チーム、医師と看護師など患者に関わるすべての人の信頼関係も治療効果を左右するファクターとして注目されていました。

さらに、チーム医療において医師の意思決定が絶対ではなく、セラピストやソーシャルワーカーの判断が重視される場面が珍しくないことも、私にとって非常な驚きでした。今から25年前の話です。

一見すると、合理主義のアメリカにおいて手間がかかり非効率な事をしているように見えますが、実は全く逆なのです。家族をも治療の対象として家族関係の改善を行うことで患者の病気の治療を図ることが、結果的には治療を成功させる一番の早道なのです。

私は、日本人はこの手法をさらに進化させ効果的に実践できる能力を持っていると思っています。ですから日本でもできないはずはありません。

この記事の著者/編集者

高瀬義昌 医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長 

医療法人社団至髙会理事長、医学博士、認知症サポート医。
1984年、信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。麻酔科、小児科研修を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年、東京都大田区に在宅医療中心の「たかせクリニック」を開業する。在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。『はじめての認知症介護』『自宅で安らかな最期を迎える方法』など著書多数。

この連載について

在宅医療のフィールドを使ったハイパフォーマンスヘルスケア

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。