#05 高瀬義昌氏「在宅医療はレスキューシステムです。」
連載:在宅医療のフィールドを使ったハイパフォーマンスヘルスケア
2020.05.04
在宅診療の卒業式
私たちは、在宅の患者さんで一人では歩けなかったり食事ができなかった方が自分でできるようになった時には、在宅診療の卒業式をしています。
式では患者さんを表彰しお花を贈呈して、在宅医療からの卒業を称えます。こんな事をしているのは極めて珍しいのではないでしょうか。私どもでは在宅医療の在り方を示す時代のモデルルームでありたいと思っているのです。
医療者として、特にプライマリ・ケアでは、患者さんに行動変容を起こしていくのが本当のプロの仕事だと思います。
患者さんの行動変容や認知の変容ができなかったら、それは医療側の力量不足にあると考えるべきで、医療者は常にカウンセリングとコーチングのクオリティをブラッシュアップしなければならないと思っています。
支援の本質とは何か
日本のキャリア研究の第一人者で、神戸大学大学院の金井壽宏教授が監訳された本で、エドガー・H・シャインの「HELPING」(邦題『人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則』があります。
エドガー・H・シャインは、組織心理学者として世界的に高名なマサチューセッツ工科大学の名誉教授です。
組織行動論におけるクリニカル・アプローチやプロセスコンサルテーションを考案した組織論の第一人者で、私が尊敬する学者の一人で、2011年には渡米してご本人と面会しました。
エドガー・H・シャインは「HELPING」の中で、相手のためになりたいと思って接するのに、それが意外と難しいことに気付かされることが多い。親切が仇になることもよくあるが、それは、助けを求める側が助言に耳を傾けないから生じることもあろう。
だが、助ける側が、相手の要望に耳を傾けることなしに、頭ごなしに答えめいたものを押し付けているせいであることも多い。と援助の本質とは何かを「支援学」として解説しています。
援助の本質とは、何でも全部してあげることではありません。在宅医療における支援の在り方の答えがここにあるように思います。まずこのことを、医療を提供する側が理解していなければなりません。
在宅医療はレスキューシステムです。
厚生労働省の新オレンジプランの中で、2025年には認知症の人が700万人になると言われています。そうなると地域包括ケアはマンパワー不足などで、そこから漏れ落ちてしまう人たちが沢山出てくると予想されます。病院では対応できません。
その人たちのレスキューシステムこそが在宅医療だと思っています。在宅医療に取り組んでいる医師はキャッチャーボートのようなものです。地域の医療現場で見ているから在宅医にはいろいろな患者さんの情報が入ってきます。
それに対していち早く対応し、患者さんを地域の中で見守ります。当然リスクもありますから緊急時には安全に病院に繋ぐなど、いわば懐深い病診連携が大切です。しかし対応できる病院が少なくなっているのが現状と言えます。
これでは、キャッチャーボートがあっても母船がないのと同じです。